2024年10月14日、業績低迷によって退任したジョン・ドナホーの後任として、ナイキの新CEO、エリオット・ヒルが就任しました。
1988年のナイキ入社以降、同社にて着々とキャリアを積み上げるも、2020年にナイキを去ったエリオット・ヒルの突然のCEO就任。
ナイキ取締役会はなぜ彼を選んだのか?
その理由を紐解くには、これまでナイキを牽引した歴代社長の歴史や功績を振り返る必要があります。
業績の低迷が著しいナイキが、今後どのように歩んでいくのかを含めて考察します。
■ナイキの歴代CEOはどんな人物?
・ナイキの歴代CEO
創業者:フィル・ナイト(Philip Hampson Knight)
2代目:ウィリアム・ペレス(William David “Bill” Perez)
3代目:マーク・パーカー(Mark Parker)
4代目:ジョン・ドナホー(John Donahoe)
5代目:エリオット・ヒル(Eliott Hill)
1964年にビル・バウワーマンとフィル・ナイトが鬼塚商会(現アシックス)のランニングシューズのアメリカでの販売を目的に設立したブルーリボンスポーツ。
ギリシャ神話の勝利の女神の名になぞらえ、1971年に社名をナイキ(NIKE)に変更し、世界最大のスポーツメーカーの原型は誕生しました。
創業者兼CEOとなったフィル・ナイトは陸上競技用シューズの製造・販売によってナイキ社の成長に寄与。
1980年代にはバスケットボール業界に参入し、エアフォース1やエアジョーダンを世に出すことで名実共にNo.1スポーツメーカーとして名を馳せます。
出典:sae-cornell
フィル・ナイトが自身の後任として2代目CEOに選んだのは、日本ではカビキラーやパイプユニッシュで知られるSCジョンソンの社長を務めていたウィリアム・ペレス。
2004年12月にナイキのトップに就任した彼でしたが、フィル・ナイトとの経営方針の不一致により2006年の1月にわずか1年余りで退任してしまいます。
早すぎる退任となったウィリアム・ペレスの後を引き継ぎ、2006年から3代目CEOに選ばれたのがマーク・パーカーです。
マーク・パーカーは1979年にナイキにデザイナーとして入社した古株社員。
1987年にはナイキ開発担当部門のバイスプレジデント、1998年にはグローバルフットウェア副社長まで昇格。
出典:k-skit
スニーカーデザインでは裏原宿のカリスマ藤原ヒロシ、エアマックスやエアジョーダン(3~15他)のデザイナーティンカー・ハットフィールドと共に、HTMプロジェクトを主導。
3人の頭文字をつなげて名付けられたこのシリーズは、今日のナイキが制作するプロダクトに多大なる影響を与えたと言えるでしょう。
出典:forbes
そんなマーク・パーカーは2020年にナイキのCEOを退任し会長となることを発表。
後任として選ばれたのは、世界的なコンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニーやeBayのCEOを歴任したジョン・ドナホーでした。
2010年代のスニーカー・ストリートファッションブームも相まって大人気を博したマーク・パーカー体制のナイキを引き継ぎ、同ブランドのさらなる拡大を任されたジョン・ドナホー。
しかし、彼が4代目CEOの座について以降のナイキの状況は、決して芳しいものではありませんでした。
新型コロナウイルスの蔓延がファッション業界全体に暗雲として立ち込めたのはもちろんのこと、大きな売上シェアを誇っていた中国市場が、新疆ウイグル自治区の綿を使わないと決めたナイキに反発し停滞。
そして、2021年にはナイキのブランド力の源泉とも言えたオフホワイト(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)のヴァージル・アブローが死去。
時を同じくしてオフホワイトと同じくコラボスニーカーが人気だったトラヴィス・スコットが、自身のライブで死亡事故を引き起こしたことによってコラボが一時停止します。
こうして列挙するとナイキの業績悪化をジョン・ドナホーの舵取りのせいだけだとするのは可哀想にも感じますが、外部からやってきた新参者CEOの元で業績が下がれば、その原因を本人に求めたくなるのも人の性。
そもそも「好きなナイキのアイテム」を尋ねられて、エアジョーダンやダンクではなく「ゴルフパンツ」と答えるようなCEOは、周囲(特にコアなナイキファン)から懐疑的な目で見られても無理はありません。
かくして、2024年をもってジョン・ドナホー政権は終了が決定。
ナイキ取締役会は同社の建て直しを図るべく、2020年にジョン・ドナホーのCEO就任と共に会社を去ったナイキの生え抜き、エリオット・ヒルを呼び戻すことを決めたのです。
■ナイキの新CEO、エリオット・ヒルとはどんな人物?
エリオット・ヒルは1988年6月にインターンとしてナイキに参画。
のちにナイキのグローバル販売担当副社長やアディダスアメリカ のエグゼクティブバイスプレジデントを務めることとなるティム・ジョイスの推薦によって社員の座を獲得。
インタビューによれば、ナイキの職を得るためにエリオットはティムに「6か月間しつこく説得」したと述べています。
以降、欧米エリアの管理職やコンシューマー&マーケットプレイス部門のトップなどを歴任。
しかし、2020年にマーク・パーカーがCEOの座を明け渡すにあたり、後継者争いで外部からやってきたジョン・ドナホーに敗北。
ジョン・ドナホーCEOの誕生と共にナイキを退職し、30年にわたって集めてきたナイキのコレクションアイテムすらもオークションで売却しました。
※当時エリオット・ヒルが売り払ったビンテージコレクションたち
以降、自身がかつて学んだテキサスクリスチャン大学の理事を勤めていたエリオット・ヒルでしたが、今回ジョン・ドナホーの退任と共に念願のCEOとしてカムバックとなりました。
■ナイキCEOは“生え抜き”にしか務まらない?!
ナイキの歴代CEOのキャリアを分析してみると、2代目のウィリアム・ペレスと4代目のジョン・ドナホーが他の企業出身だったのに対し、初代/3代、そして5代目となるエリオット・ヒルはナイキのキャリアが非常に長い人物。
ナイキで長く・深く働いた経験を持たない2代目CEOウィリアム・ペレスが1年余りで社を去ったことは、4代目CEOだったジョン・ドナホーが短期政権に終わったこととリンクしているように感じます。(2014年からナイキの社外取締役を務めていたとはいえ…)
コンサル出身のジョン・ドナホー前CEOとは対照的に、キャリアのほとんどをナイキに捧げたエリオット・ヒルが今回CEOに選ばれたのは、まさにナイキの危機感の表れ。
創業者フィル・ナイトや3代目CEOを務めたマーク・パーカーのように、長くナイキを牽引できるリーダーシップを期待してのことでしょう。
昨今のスニーカーショップを見渡してみると、ニューバランスやホカ、ON、サロモンの影に隠れ、ナイキのスニーカーが店の端っこに追いやられている姿が目立ちます。
リリースされるスニーカーやコラボレーションにも真新しさが薄れ、人々の興味が他ブランドに移っている現状を、ナイキをよく知るエリオット・ヒル新CEOはどのように変えてゆくのでしょうか?
■さいごに
今回の記事ではナイキの歴代CEOの来歴を紹介しつつ、同社の今後を考察しました。
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