深掘り解説

【徹底解説】ナイキ(Nike)はなぜベイプ(BAPE®)を権利侵害で提訴したのか?!

nike BAPE 提訴

カラフルなカモ柄やアイコニックな猿のキャラクターで知られるBAPE®ことA BATHING APE。
裏原宿文化の代表的ブランドであり、今日に至っても世界中で人気を集めるこのブランドが今、スポーツファッションの巨人ナイキから訴えられています。
理由はBAPE®が長年にわたってリリースしてきたスニーカーのデザインがナイキのそれと酷似していたから。

しかし、少しでもスニーカーに詳しい人であればBAPE®のスニーカーは誰もがナイキのオマージュだと理解していたこともあり、スニーカーヘッズからは「なぜ今更?」という困惑の声も少なくありません。

今回の記事ではこの突然の大ニュースを徹底分析。
過去のナイキの訴訟事例などと共に事件を見てゆきます。

■BAPE®のリリースしてきたBAPE STA™をはじめとするスニーカー


出典:bape

BAPE®ことA BATHING APEは1993年にNIGO®氏によって設立。
NIGO®氏はのちにHUMAN MADEの設立やファレル・ウィリアムス(現ルイヴィトン メンズディレクター)とのブランド立ち上げ、そして2021年よりKENZOのアーティスティックディレクターを務めるなど、ファッション界の重要人物のひとりです。

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NIGO®氏が作り上げたBAPE®はブランドのアイコンとも言える猿のトレードマーク、フーディ部分までジップを上げられる特徴的なパーカーやカラフルなカモフラージュ柄などが人気を集め、芸能人や海外セレブ含め多くのファンを持ったビッグブランドです。


出典:theillest

そんなBAPE®が2000年から毎年のようにリリースしているのがBAPE STA™をはじめとするスニーカーアイテム。
その見た目はナイキの名作スニーカーに酷似しており、ナイキのアイコンである「スウッシュ」を流れ星のマークにすげ替えたデザインとして知られています。

筆者の体感ではありますが、BAPE®のシューズを求める人々の多くはこの靴が「ナイキのスニーカーをベースにデザインされていることを理解しつつ」購入。
ナイキのスニーカーよりラグジュアリーなモデルとして、もしくは他のスニーカーヘッズとの差別化としてBAPE®のシューズを履いていたように思います。


出典:bape

こうしたある種BAPE®側のデザイン盗用ともとれる商品展開でしたが、ナイキから即座に抗議が入るようなこともなく、BAPE STA™は他のブランドとコラボプロダクトをリリースしたり、BAPE STA™が大手のセレクトショップなどでも並ぶような状況が今日に至るまで20年以上続いていました。

■BAPE STA™の誕生とこれまでのナイキとのやりとり


出典:minari-media

ナイキのエアフォース1に酷似したBAPE STA™が誕生したのは2000年。
当時ナイキのエアフォース1に惚れ込んでいたNIGO®氏でしたが、BAPE®店内にてエアフォース1を取り扱うことをナイキに断られてしまいます。

しかし、そこでNIGO®氏が取った行動はまさしく予想外。
ナイキのエアフォース1にデザインを酷似させていながら、スウッシュマークを流れ星のマークに差し替えたBAPE STA™を発表したのです。


出典:pinterest

BAPE STA™は当時のナイキがほとんど行わなかった3色以上の色使いやパテントレザーなどの素材が話題に。
ヒップホップ界隈やストリートファッション好きから絶大な支持を集めました。
もちろん権利に厳しいナイキがこれを見過ごすはずがありません。

NIGO®氏はその後2009年にナイキと協議
米国におけるBAPE®の販路を減らすことを条件にBAPE STA™を黙認してもらう取り決めを交わしたそうです。

しかし、2011年に香港のI.T.社にNIGO®氏がBAPE®を売却。
2016年にBAPE STA™の販売が再開されると、当初はナイキの目を気にしてかデザインをエアフォース1からより離した見た目でリリースしていました。
しかし、2020年にBAPE STA™誕生20周年を迎えると方針転換が。


出典:monomax

2021年に再度リデザインを行い、よりエアフォース1に寄せた見た目となってしまったのです。
また、素材使いや色展開もNIGO®時代と比べナイキの模倣が多め
カラーリングも本家と同じく2色で出すことが増えていたのです。

■ナイキが遂にBAPE®を権利侵害で提訴


出典:twitter

そんな中、2023年の1月末になんとナイキがBAPE®を提訴
ナイキの人気スニーカーのデザインを少なくとも5つのBAPE®スニーカーが「ほぼそのままコピーしている」とマンハッタン連邦裁判所にて主張しました。
ナイキの担当弁護士は本件について以下のように主張。
BAPE®は2005 年以来、米国で「権利侵害を伴う靴」を断続的に販売していたが、2021年に侵害の量と範囲を大幅に拡大した。
ナイキはBAPE®に彼らのデザインをコピーするのをやめるように頼んだが、BAPE®は拒否した。
ナイキの権利に対する重大な危険に発展しているため、ナイキは今行動しなければならない。

■オマージュスニーカーに対するこれまでのナイキの反応

エアフォース1やエアジョーダン、ダンクといったナイキの名作スニーカーは、BAPE®に限らずこれまで様々なブランドからよく言えばオマージュ、悪く言えばデザインを盗用されてきました。
こうしたスニーカーのデザイン酷似に対し、ナイキはどのような対応を行ってきたのでしょうか。

・ジョン・ガイガーの場合


出典:hypebeast

ナイキでかつてZOOMシリーズなどを手がけたジョン・ガイガー(John Geiger)はナイキを退社後、カスタムメーカーThe Shoe Surgeonとタッグを組み既存スニーカーのカスタムモデルを作るデザイナーとして活躍。

そんな中、ナイキのエアフォース1をベースにスウッシュをGeigerの頭文字である“g”に変更したモデルを発表。
ナイキはこれに激怒し、彼を商標権侵害で提訴することとなりました。

・エンダースキーマの場合

エンダースキーマ ナイキ

上質な革製品を得意とするエンダースキーマは、ナイキやアディダス、リーボックなどの名作スニーカーを模した革靴シリーズ「オマージュライン」を長年にわたってリリース。
その中にはナイキのエアフォース1やエアマックス90、エアジョーダン4などを模したシューズを多数リリースしています。

しかし、2023年に至るまで、ナイキはエンダースキーマを権利侵害で提訴したことはなく、それどころかナイキ本社の社長室にはエンダースキーマ製のエアジョーダン4を模したシューズがこっそり飾られているそうです。
また、アディダスは2019年に正式にエンダースキーマとコラボを行っています。

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・RTFKTの場合

RTFKT ナイキ

メタバース上などで着用するデジタルスニーカーを手がけるNFTブランド、RTFKT(アーティファクト)。
RTFKTがNFTとして2021年に販売したこちらの600足のデジタルスニーカーはわずか7分で完売し、3.5億円を売り上げ。
同シューズはNFTとしてバーチャル上で楽しめるほか、後日同デザインの実際のシューズが購入者に送られてくる仕様でした。

これらのデザインはどう見てもナイキのエアフォース1に酷似。
どこかのタイミングでナイキ側から訴訟問題に発展するかと思われていましたが、なんと同年12月にナイキによってRTFKTそのものが買収。


出典:businessoffashion

現在は正式にナイキ傘下のブランドとして、スウッシュを使ったNFTスニーカーを多数リリースしています。

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■なぜBAPE®はNikeから提訴されたのか

ナイキ パクリ 提訴 オマージュ

ここまで、BAPE®の事例と比較するために幾つかのナイキオマージュのスニーカーを出しているブランドについてご紹介致しました。
前項で述べた事例を踏まえると、ジョン・ガイガーは「かつて自身がナイキに所属していた」という経歴がナイキ側から重く見られた可能性が高そうです。

エンダースキーマは材質を革で統一し、スニーカーではなく革靴として販売していることや、他の事例のようにナイキのスウッシュを別のデザインに差し替えるのではなく、取り払うのみに留めていることなどがお目溢しをもらっているのかもしれません。

そしてRTFKTは、メタバースやNFTという将来性のある業界のトップランナーとして、対立よりも協調を望んだナイキ側によって、なんと提訴どころか買収されるまでに至っています。
こうした中、ナイキはなぜ20年以上も黙認してきたBAPE®をこのタイミングで提訴したのでしょうか。

近年のBAPE®はBAPE STA™誕生20周年の記念企画を行ったり、アメコミ大手MARVALや、人気ブランドJJJJoundとコラボしたりといった活動を数多く実施。


出典:bape

本来ナイキのデザインあっての商品だったBAPE STA™が一人歩きし、それをあたかも自分たちのブランドの人気プロダクトのようにBAPE®側が取り扱ったからではないでしょうか。
また、ナイキのシューズは近年ますます様々なデザインのモデルをリリースしており、不可侵のトレードマークだったスウッシュに手を加えたナイキのスニーカーが多数リリースされていることも見落とせないでしょう。

最近のナイキ

ナイキのこうしたデザインのスニーカーに紛れてBAPE STA™が販売されることをナイキ側が嫌った可能性は十分にありえます。
現に、当サイトの公式Twitterアカウントで本件についてツイートしたところ、「BAPE STA™はナイキの許可をとっていなかった事に驚き」「今までコラボだと思っていた」等のコメントも多く、こうした誤った認識を止めるためにも訴訟に踏み切ったのではないでしょうか。

そして、極め付けとなったのがBAPE®とアディダスのコラボレーション。


出典:prtimes

ナイキのスウッシュからインスパイアされた流れ星のロゴが、ナイキ最大のライバルであるアディダスの3本線と同居しているという状況
これがナイキの逆鱗に触れた可能性は十分に考えられます。

■さいごに

今回の記事では、大手ストリートブランド、BAPE®ことA BATHING APEをナイキが提訴した事件について過去の事例と共に考察しました。
ファッション業界はある意味オマージュによって成り立っている業界であり、各ブランドがそれをリスペクトと捉えて黙認するか、はたまた盗用として訴えるかはこれまでも千差万別でした。
大きくなりすぎたBAPE STA™を黙認できなくなったナイキに対し、今後BAPE®側はどのような対応をするのでしょうか。
今後もファッションアーカイブ.comでは本件について注視してゆきたいと思います。


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しゅー
2022年まで約6年間にわたって大手IT系企業に在籍。ファッションブランドやゲーム会社のマーケティング、カスタマーエクスペリエンス強化、海外進出を支援。Supreme、スニーカー、ラグジュアリーストリートが大好物。