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ネガティブ思考で陰気なキミにおすすめ!アンチソーシャルソーシャルクラブ(Anti Social Social Club)ってどんなブランド?

あなたはアンチソーシャルソーシャルクラブというブランドをご存じでしょうか。

歪んだFriz Quadrata書体で大きく「Anti Social Social Club」とバックプリントが施されたTシャツやパーカーを着ている人を、あなたも何度か見かけたことがあるかもしれません。

ストリートファッションシーンで少しずつその存在感を増している謎のブランド、今回はそんなアンチソーシャルソーシャルクラブの歴史や人気の秘密に迫ります。

出典:Stock X

■アンチソーシャルソーシャルクラブとは?① -ブランド/製品の特長-

「デザイナーのネガティブ思考を洋服に落とし込んだのがアンチソーシャルソーシャルクラブである」と聞いた人は少し驚くかもしれません。
アンチソーシャルソーシャルクラブを立ち上げたニーク・ラーク(Neek Lurk)は、自身のブランドについてこうインタビューで語っています。

「27歳の時に自身が患ったうつ病に関する感情のはけ口としてブランドを立ち上げた。私の人生におけるネガティブなもの全てに基づいてブランドを作っている。私は本当に奇妙な方法でお金を稼いだ」
ニークの言葉通り、アンチソーシャルソーシャルクラブのプロダクトは常にネガティブな感情にあふれています。

「everyone goes away in the end(どうせみんな最後は居なくなる)」
「enough(もういい)」

そんな言葉がちりばめられたパーカーやTシャツを毎シーズン発表するアンチソーシャルソーシャルクラブは世界で最も厭世的で皮肉屋なブランドかもしれません。

アンチソーシャルソーシャルクラブを立ち上げるまでのニーク・ラークのキャリアは、デザインよりブランドマネジメントやソーシャルマーケティングに比重が置かれていました。
こうしたキャリアもあり、彼のリリースする商品はどれも複雑なデザインや精緻なイラストよりも、彼の吐く後ろ向きなスローガンがプリントされただけのアイテムであることが多いです。

■アンチソーシャルソーシャルクラブとは?② -ブランドの歴史やデザイナーの来歴-

アンチソーシャルソーシャルクラブの創設者であるニーク・ラークは、1988年10月5日生まれの韓国系アメリカ人です。

ラスベガスで育った彼は、ラスベガスの雰囲気に馴染めず、経営学を学ぶためにネバダ州南部の大学で過ごす時間を除いて24時間、自分の部屋でインターネットと向き合う日々を過ごしました。

インターネット上ではもっぱら自身のブログ(「Where’s Neek」…内容は彼の車への不満から日本のポルノAVへの愛に至るまで様々)の更新やナイキのスニーカーに関するコミュニティサイトでの交流に時間を費やしていました。

大学卒業後、アメリカ西海岸を代表するストリートブランドであるステューシー(Stussy)にパートタイムで入ると、すぐにマーケティングの才能を発揮しラスベガス店のゼネラルマネージャーへ昇格。
そして最終的にはステューシーのソーシャルメディアマーケティングマネージャーになりました。

2014年にはロサンゼルスへ移住。
新しい都市に一人、ニークは自身の周囲をリコーのカメラで記録し、ブログへの投稿を始めます。
心を病んだニークは、彼自身の怒りや孤独感を写真と共にTシャツにプリントすることで発露するようになります。

アンチソーシャルソーシャルクラブのきっかけは、2014年後半にある少女が彼を傷つけ、去っていったことから始まりました。
この悲しい出来事に対し、ニークは前面に「“I Miss You”(あなたがいなくなって寂しい)」というフレーズと、右耳の上にあるAnti Social Social Clubのロゴが刻印された6パネルキャップをデザインし、発売しました。

画像出典:fsg.carousell.com

のちに当時を振り返って「当時、この製品の販売に大きな目標や野心など無かった」とニークは語っていますが、キャップのリリースから数か月後、お騒がせセレブとして有名なキム・カーダシアンがニューヨークファッションウィークでそのキャップを被っている姿がスナップされたことで注目を集めます。

反響を踏まえ、ニークは2015年にAnti Social Social ClubのロゴをプリントしたTシャツとパーカーをオンラインで販売します。

ブランドの開始から3週間後、ラッパーであり、世界を代表するファッションアイコンであるカニエ・ウェストがアンチソーシャルソーシャルクラブのパーカー(のちに「Mind Games」と呼ばれる定番商品となります)を着てジムに向かう所をパパラッチされたことで、ブランドのサイトトラフィックを1週間で約200万人を超え、注目と知名度が爆発します。

■アンチソーシャルソーシャルクラブとは?③ -買収-

2022年5月末、アンチソーシャルソーシャルクラブはブランド管理会社MarqueeBrandsによって買収されたことが発表されました。
MarqueeBrandsはイギリスのアパレルブランド「ベンシャーマン」や、アメリカの有名ライフコーディネータであるマーサ・スチュアートが手掛ける同名ブランドなどを傘下に持つ企業。
近年VFコーポレーションがストリートファッションの帝王シュプリームを買収し業績を上げたように、アンチソーシャルソーシャルクラブを傘下に加えることで自社の売上を拡大したい意向が見て取れます。
なお、MarqueeBrandsの最高経営責任者であるニール・フィスクは、今回の買収について以下の声明を発表しています。

「私たちの計画は、ブランドのDNA、価値観、文化を変えずに、ASSC(※アンチソーシャルソーシャルクラブの略称)をASSCのままにすることです。私たちは、彼らの成長を支援するための資本と運営プラットフォームを提供しています。彼らは、これまでと同じように、起業家精神にあふれ、創造的で、逆張り的で、奇妙なままです。」

■アンチソーシャルソーシャルクラブとは?④ -マーケティング戦略-

・コンセプトから見えるブランド戦略

アンチソーシャルソーシャルクラブを、「あくまで自身の感情のはけ口」とニークは語りますが、そのコンセプトには長年トップブランドでソーシャルマーケティングを手掛けた彼の戦略が見え隠れします。
その証拠に、彼はアンチソーシャルソーシャルクラブがネットを中心に話題を集めた理由を次のように語っています。

「インターネットは否定的です。誰も話していなければ、誰もその製品を気にしません。話題が肯定的であるほど、影響力は小さくなります。あなたが得る否定的な憎しみがより厳しいほど、より多くの人々が見ています。負こそが正なのです」

・オンライン受注生産に絞った販売手法

アンチソーシャルソーシャルクラブは、BEAMSなどとのコラボ商品のリリース時を除き、実店舗運営やセレクトショップ等への卸を一切行わず、公式オンラインストアでの販売、それも受注生産での販売という方針を貫いています。

「生産された商品の半分が廃棄処分になる」と言われるファッション業界において、商品販売を受注生産に絞ることで在庫を抱えるリスクや売れ残りによるセールを無くすニークの戦略は、まさに彼のバックボーンであるマーケティングの知識が生かされていると言えるでしょう。

なお、受注生産の最大のデメリットが注文から商品が顧客の手元に届くまでに時間を要することであるのは周知の事実ですが、このジレンマがアンチソーシャルソーシャルクラブの人気の爆発と共にブランドを苦しめたことも記載しなければならないでしょう。

前述のブランドサイトへの200万回ビュー事件以降、彼のサイトへは何千何万もの注文が殺到し、生産ラインはパンク状態に陥りました。
Instagramで見た商品をすぐに欲しがるストリートキッズたちにとって、注文から3ヵ月経っても商品が届かない状況は耐え難く、「#wheresmyhoodiebro(俺のパーカーはまだか)」のハッシュタグと共に、ニークのInstagramアカウント(現在はクローズ済み)へのバッシングが熾烈を極めました。

また、ファッションデザイナーのヴィッキー・レイトン(Vicky Layton)によれば、 2017年のAnti Social Social Clubにおいて、製品の発送を待ちきれない人々が模造品を購入することが増えたことにより、アンチソーシャルソーシャルクラブの市場全体において、こうした模造品による収益が全体の約25%にまで及んだとのことです。

商品発送の遅れによる苦情が殺到したことで米連邦政府からの是正勧告まで受けたアンチソーシャルソーシャルクラブですが、2020年現在においては、新シーズンのアイテムの受注期間を1時間程度しか行わないことや、生産体制の強化を行うことで改善しています。

■アンチソーシャルソーシャルクラブとは?⑤ -著名人の着用-

画像出典:poshmark.com

アンチソーシャルソーシャルクラブは、ブランドの注目を集めるきっかけとなったカニエ・ウェストとキム・カーダシアン夫妻はもちろんのこと、近年ナイキとのコラボスニーカーにより一躍勇名を轟かせたトラヴィス・スコット、歌手のアリアナ・グランデ。
そして韓国のG-DRAGONや防弾少年団など、近年におけるファッションアイコン的存在がこぞって着用をしています。

近年人気を博した他の新興ストリートブランドと同様、彼らのようなファッションアイコンの存在なくして、アンチソーシャルソーシャルクラブの今日の人気は無かったと言えるでしょう。

■最後に

アンチソーシャルソーシャルクラブは、洋服の品質面においては決して優れたブランドではありません。

それでもこのブランドが人気を集める大きな理由は、Instagram全盛の時代においてキャッチーなロゴを前面に打ち出した事や、ニークから吐き出されるネガティブで憎悪に満ちた感情が、ネット世代の心に響いたからだと筆者は分析しています。

様々なデザイナーが創意工夫を凝らしたデザインを楽しんだり、パタンナーが技術の粋を凝らして作り上げた洋服に袖を通すのが大好きな筆者ですが、個人的にはアンチソーシャルソーシャルクラブのパーカーへの愛着も捨てきれない事を申し添えて、本記事の結びと致します。

ABOUT ME
しゅー
2022年まで約6年間にわたって大手IT系企業に在籍。ファッションブランドやゲーム会社のマーケティング、カスタマーエクスペリエンス強化、海外進出を支援。Supreme、スニーカー、ラグジュアリーストリートが大好物。