2010年代後半を席巻したストリートファッションとラグジュアリーファッションの融合は、今やアパレル業界における一つの常識として浸透しつつあります。
2020年で言ってもラグジュアリーブランドの雄であるディオール(Dior)とバスケットボールシューズからストリートファッションの定番となったエアジョーダンとのコラボレーションや、1921年の創業以来、数々の王侯貴族やセレブリティを含む多くの人々から愛されたグッチ(Gucci)と、アメリカで生まれた大人気アウトドアブランド、ノースフェイス(The North Face)のコラボレーションなど、10年前には考えられなかったコラボレーションが実現しています。
今回の記事では、今日の「ラグジュアリーストリート」の大きなうねりの中心に居た3人のデザイナーにフォーカスします。
現在バーバリー(Burberry)を手がけるリカルド・ティッシ、ディオールのキム・ジョーンズ、そしてルイヴィトンにおける黒人初のアーティスティックディレクターとなったヴァージル・アブロー。
いずれもラグジュアリーブランドの最高峰で活躍する彼らの経歴を紐解くことで、ラグジュアリーストリートという大きな潮流に迫ってゆきたいと考えています。
■リカルド・ティッシ
2005年から名ブランド、ジバンシィ(GIVENCHY)のウィメンズを、そして2008年から2017年までメンズ/ウィメンズ双方のデザインを手掛け、現在はバーバリーを率いているリカルド・ティッシこそ、ストリートファッションとラグジュアリーファッションの融合をのきっかけを形作った人物です。
ユベールド・ジバンシィの退任以降、ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンといった名だたるデザイナーを次々と登用したにも関わらず、他のブランドと比べ頭ひとつ抜けることのできていなかったジバンシィ。
そんな同ブランドを再びトップブランドに押し上げたのはリカルドがブランドに対して行った改革あってのことだと言っても過言では無いでしょう。
詳しくはジバンシィの歴史について語った下記の記事をお読み頂ければと思いますが、リカルドは「ジバンシィ初期をリスペクトした構築的デザイン」と「ストリート的なミックススタイル」を融合させたアイテムを次々と打ち出します。
世界一のファッションアイコンにしてストリートファッションの雄であるラッパー、カニエ・ウェストのライブ衣装を手掛けていたこともあり、ストリートへの造詣が深かったリカルドは、代表的なストリートスタイルであるレイヤードやチェーンネックレス、攻撃的なグラフィックデザインをラグジュアリーブランドであるジバンシィで表現することで、同ブランドの存在感を一気に高めました。
2017年に惜しまれつつもジバンシィを退任したリカルド・ティッシは、バーバリーのクリエイティブディレクターに就任。
バーバリーの代名詞とも言えるトレンチコートに熱加工で文字をプリントしたアイテムや、ダッドスニーカーを思わせるボリュームたっぷりな靴など、ストリート感あふれるアイテムを次々と発表しています。
また、商品の販売方法も近年のプレミアスニーカーの販売を意識したかのようなスタイルを導入。
リカルドのバーバリーにおけるファーストコレクションを発表した9月17日にちなんで毎月17日に発売している限定アイテム「B SERIES」は、いずれも24時間の間しか発売しないことで大きな話題に。
こう言った販売方法は「限定」によってファンからの射幸心を煽っているストリートブランドの得意技とも言えるでしょう。
■キム・ジョーンズ
出典:lepoint
ポール・エルバースの後任として2011年よりルイヴィトンのメンズ部門におけるアーティスティックディレクターに就任したキム・ジョーンズは、自身のルイヴィトンにおけるキャリアの集大成として、2017年にあのシュプリーム(Supreme)とのコラボレーションをリリースします。
HIKAKIN氏をはじめとする有名人の効果もあってか一般層にも広く認知されたこのビッグイベントは、店舗への入場券が100万円で取引されるほどの大きな熱を生みました。
ストリートとラグジュアリーのそれぞれのトップブランドがコラボレーションを行ったこのイベントは、間違いなくファッション史に残る出来事だったと言えるでしょう。
本コラボについてはこちらの記事にて経緯等を含め詳しく記載しております。
このコラボレーションの翌年ルイヴィトンを退任したキム・ジョーンズは、同じLVMHグループであるディオールのディレクターに就任。
ファーストコレクションからストリートで絶大な人気を誇る現代アーティスト「カウズ(KAWS)」にフィーチャーしたアイテムをリリースし話題を呼びました。
その後も西海岸のストリートブランドのトップとも言えるステューシー(Stussy)とのコラボレーションを行うなど、キム・ジョーンズは常にラグジュアリーストリートの最前線を走っているデザイナーだと言っても過言ではありません。
2020年9月にはフェンディ(FENDI)のウィメンズアーティスティックディレクターに就任したことを発表され、ディオールと二足の草鞋で益々の活躍が見込まれるキム・ジョーンズに、これからも目が話せません。
■ヴァージル・アブロー
出典:i-d.vice
キム・ジョーンズの盟友、ヴァージル・アブローは、キムの後任として2018年より今日のルイヴィトンのメンズ部門をアーティスティックディレクターとして率いています。
建築分野からファッション業界に入るという特殊な来歴を持ち、2014年に立ち上げたオフホワイト(Off-white)は、バレンシアガ(BALENCIAGA)やグッチ、ナイキ(Nike)といったブランドを抑え、3期連続(2020年第1四半期現在)で「最もホットなブランド」に輝いている至高のストリートブランドです。
そんな経歴を引っさげ、2018年に黒人としては初のハイブランドのアーティスティックディレクターに就任したヴァージル・アブロー。
彼の特異性は人種によるもののみならず、服作りのキャリアで言えば10年にも満たない男が、ストリートファッション、そしてラグジュアリーファッションそれぞれの代表的ブランドのトップに立っているという事実を踏まえると、より際立っています。
実は前述のリカルド・ティッシ同様にカニエ・ウェストの元で彼のツアーの物販やステージデザインなどを手掛けていたヴァージル・アブローのルイヴィトンにおけるクリエイションは、エアジョーダンやイージーブーストといったストリートで人気を誇る名作スニーカーのオマージュ的なシューズや、リカルドの系譜を受け継ぐかの様なオーバーサイズ、レイヤードといったストリートスタイルをルイヴィトンの最高級素材に落とし込んだアイテムが著名です。
彼の作るクリエイションは絶大な人気を誇り、まさにラグジュアリーストリートの鉄板として今後も愛され続けてゆきそうです。
■さいごに
「ラグジュアリーストリート」という一つの潮流にフォーカスを当て、その流れの中心に位置する3人のデザイナーについて語ってきました。
当然、グッチやバレンシアガなど、こうしたラグジュアリーストリートに寄り添い人気を博しているブランドは数多くあります。
こうしたデザイナーやブランドたちが今後どの様にその道を歩んでゆくのか、楽しみでなりません。