国内有数の高感度スニーカーショップとして名を馳せるアトモス(atmos)はこれまで、他の多くのショップでは取り扱えないナイキのエアジョーダンをはじめとするレアスニーカーや、ブランドとの別注コラボアイテムなどが人気を博し、国内のみならず海外からも多くのスニーカーヘッズが来店するショップとして人気を集めてきました。
しかし、売上の一翼を担う海外スニーカーヘッズのインバウンド需要がコロナ禍で消滅。
多くの飲食店やアパレルショップが晒されているこの未曾有の危機はアトモスにとっても他人事ではありませんでした。
前回のこちらの記事では、いわばアトモスのデジタルマーケティング施策のマイナス面について語りました。
今回の記事ではコロナ危機を乗り越えるべくアトモスが取り入れた新しいデジタルマーケティング施策「atmos 110」について解説します。
■コロナ禍で急成長した業態「ダークストア」とは
2019年末に中国・武漢で発生して以来、2021年4月現在まで世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスは多くの人の健康を脅かし、小売業界や旅行業界をはじめとする多くの従来のビジネスモデルを破壊しました。
しかし、外出自粛やロックダウンによって人々の生活が自宅を起点として行われるようになったことで、世界中でワークフロムホーム(在宅勤務)の概念の浸透や、UBERや出前舘をはじめとするフードデリバリー業界の発展に大きく繋がったこともまた事実です。
そんな中、多くの小売店が集客をできず経営難に陥ったことから生まれた概念が「ダークストア」です。
海外の多くの国では日本よりも厳しく外出を取り締まる外出禁止や外出制限令が施行され、それに伴い多くのアパレルショップなどは店舗を閉めることを余儀なくされました。
しかし、シャッターを閉めた店舗の内側では開店時と同様に照明が煌々と灯り、ショップスタッフが忙しそうに動き回っているものもありました。
彼らはハンディカメラを片手に顧客とテレビ電話を繋ぎ、店舗内の商品を次々と紹介し、購買につなげることで大きな売上を得ていたのです。
このダークストアはコロナ禍で急速に広まり、キッチンスペースのみを持ち、店舗を持たずにフードデリバリーでのみ注文可能な飲食業態「ダークキッチン」などに派生しました。
■コロナ禍でアトモスに起こっていること
出典:atmos
コロナ禍において集客難となった多くの小売店同様、アトモスも危機を迎えていました。
外出自粛の流れによって来店者数が落ち込んだことも当然ながら、アトモスの売上を支えていた外国人スニーカーヘッズが日本に来れなくなったことが大きく業績に影響を与えました。
コロナ禍によってアトモスのEC販売は成長を遂げていたものの、店舗の売上減を補完するまでには至らず、何より店舗スタッフが余ってしまったことが課題となっていたのです。
業績好調のEC事業に店舗スタッフを何名か回したものの「スタッフ余り」は解消できず、そんな中彼らが目をつけたのがダークストアの概念でした。
■atmos 110のベースとなったツール「HERO」とは
アトモスがダークストアを取り入れる上で利用したのがバーチャル接客ソリューション「HERO」です。
既にナイキ(Nike)やアディダス(adidas)などのスポーツブランドやバーバリー(Burberry)、ラルフローレン(RALPH LAUREN)などのファッションブランドが導入済みのこのHEROは、「オンラインで来店と同じ接客体験を実現」することをテーマに、ダークストアを最大限活用できるような仕組みが構築されています。
出典:trans-plus
店舗スタッフは以下のような形でユーザーへの接客を行います。
- ①ブランドや店舗のサイトなどに埋め込まれたボタンを押すと、ユーザーのIPアドレスから最寄りの店舗の販売員とマッチング
- ②最初はテキストメッセージでやりとりを行い、その後動画やテレビ電話に切り替えてスタッフが店内を案内
- ③好みの商品が見つかれば、商品リンクやQRコードをユーザーに事後送信
- ④クッキーやIPアドレスを使って個人を特定し、購買や接客履歴や次回以降の商品購入もデータとして管理
- ⑤顧客のデータはスタッフの持つデバイスに残さず、HEROのサーバー側に保存することで個人情報の悪用や流出を阻止
- ⑥スタッフの持つ端末で自身の販売実績をリアルタイム把握が可能なため、スタッフのモチベーション維持にも活用
以上のような形でHEROは効率的なオンライン接客を成し遂げ、多くのアパレル企業やセレクトショップから注目を集めています。
アトモスはこのHEROを活用し「atmos 110」の名前で都内5店舗のスタッフが営業時間内でオンライン接客を実施。
スタッフのオススメ商品や新モデルの素材感やフィット感を知りたいというユーザーのニーズにマッチしたこのサービスは、非常に高いコンバージョン率(atmos 110を使ったユーザーが実際に商品を購入する率)を叩き出しています。
出典:atmos
■さいごに
今回はコロナ禍で窮地に陥ったアトモスの新サービスatmos 110にフォーカスして解説しました。
現在はまだナイキのジョーダンブランドのみで実施されているサービスですが、今後アトモスの手がける全商品までサービス範囲が広がれば、スニーカーヘッズの商品購入の新しい手段として定着するかもしれません。
本ブログでは他にもシュプリームとナイキのデジタルマーケティング戦略の今後やシュプリームのフェイク品ビジネスの驚愕の実態、ZARAを脅かす新興ファストファッションブランドについてなど、他では読めないファッションに関する解説を数多く掲載しております。
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