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まるで宗教?! アパレルも人気なアウトドアブランド「スノーピーク」とはどんなブランド?

1964年設立の老舗アウトドアブランド、スノーピーク(Snow Peak) が近年、にわかに脚光を浴びています。
コロナ禍におけるキャンプブームの効果もあってか、2021年1月-3月期で純利益は4倍に。
2020年2月には社長の山井太氏が代表権のある会長に就任し、長女の山井梨沙副社長がわずか32歳の若さで社長に就任したことでも大きな話題を呼びました。

そんなスノーピークは近年、テントや焚き火台といったキャンプ用品だけでなく、アパレル事業にも大きな力を入れています。
今回の記事では、アパレルデザイナー出身の若き女性社長が率いるアウトドアブランド「スノーピーク」にフォーカスし、同ブランドの歴史や宗教的とも言えるマーケティング戦略、そしてスノーピークが今後抱える課題について解説します。

■スノーピークの歴史

・山井幸雄商店を創業と黎明期

スノーピークの歴史は創業者山井幸雄氏が1958年、新潟県燕三条で金物問屋「山井幸雄商店」を開店したことから始まりました。


出典:oceans.tokyo.jp

問屋を立ち上げた山井幸雄氏の趣味は登山。金物問屋を営む傍ら、彼は知り合いの町工場の職人にテント設営の際に使うペグ(金具)の特注を依頼したり、海外から登山用品を個人的に輸入したりしていました。
しかし、どこまでいっても市販の商品では満足できなかった彼は、登山用のスパイクやハンマーといった金物を、彼自身が満足できるクオリティで作れるよう、燕三条の腕利きの職人に依頼します。
燕三条の職人と彼自身がテストした登山ギアを山井幸雄商店に置くと、確かなクオリティの登山具は大ヒット。
1960年代の登山ブームも相まって、これらの登山具は全国にその販路を広げることになりました。


出典:snowpeak

・ブランド「スノーピーク」の誕生

1963年、彼らが作り上げた登山用品に「スノーピーク(snow peak)」というブランド名を付け、翌年には有限会社山井商店を設立、法人組織化します。
自社工場まで立ち上げて全国のアウトドア専門店に商品をおろし始めた山井商店でしたが、登山ブームの失速に伴い、大きな苦境に立たされます。
そんな時、苦境に立たされた山井商店(1971年より株式会社ヤマコウ)を救ったのは、他でもない山井幸雄氏の息子でした。


出典:aria.nikkei.com

のちにスノーピーク2代目社長となる山井太氏はアメリカ帰り。
1986年に入社した山井太氏は欧米のキャンプ文化と日本におけるSUVの普及に目をつけ、父親の反対を押し切ってオートキャンプ事業を立ち上げます。
バブル景気に沸いた日本ではスノーピークのキャンプ商品は飛ぶように売れ、1996年に太氏が新社長に就任すると、ブランド名を社名に組み込み、株式会社スノーピークとしました。

・キャンプブームの低迷と業績復活まで

1996年に満を辞して社名を変更した株式会社スノーピークでしたが、1990年頃からバブル崩壊が始まると少しずつ市民の余裕がなくなります。
余暇にキャンプを楽しめる層が激減すると、かつての登山ブームの失速と同様にオートキャンプ需要も大幅に減少。再びスノーピークは苦境に立たされます。

そんな時、山井太氏は僅かに残ったキャンプ愛好家と語らうキャンプイベント「Snow Peak Way」を開催、そこでキャンパーたちから衝撃のコメントを貰います。
キャンパーたちが山井社長に語った「ものはいいけど値段が高い」「店の品揃えが悪く、欲しいものが見つからない」と言った言葉は、スノーピークの物流の問題点を的確に指摘していました。

当時スノーピークは自社の商品を問屋を通じて約1000店舗の販売店へと商品を流すスタイルで販売。問屋が間に入ることで価格が上昇し、販売店も数が多すぎることで商品が十分に行き渡らないことが課題でした。
そこで、山井社長は間に入る問屋を全てカットすることでテント一張り8万円から5万9,800円まで値下げ。また、正規特約店制度を導入し、店舗数を250店舗まで削減。1店舗あたりの商品の品揃えをよくすることに成功しました。
また、各店舗には社員を常駐させることで、それまで販売店任せにしていた商品説明やユーザーとのコミュニケーションを活性化。
こうした努力により、スノーピークは業績悪化の苦境から脱出することとなりました。

・本社移転と上場、そして若き女社長の誕生まで

時は流れ、2011年には本社を移転。キャンプフィールドを併設した広大な敷地を持つ「Headquatrs」として、スノーピークユーザーへの開放を始めました。


出典:sbs.snowpeak

2014年にはマザーズ上場、翌年には東京証券取引所第一部に市場変更したスノーピークは、キャンプ用品に続く新たなビジネスをスタートさせます。
2014年にリニューアルされたアパレル事業では、「Home⇌Tent」をコンセプトに「日常と自然の距離をなくす服」を開発。
そのアパレル事業を主導したのは山井太社長の娘である山井梨沙氏でした。


出典:aria.nikkei.com

機能性とデザイン性が両立されたスノーピークのアパレルアイテムは着実に人気を集め、現在ではハイブランドやデザイナーズブランドひしめくGINZA SIXにまで出店を広げています。
2020年には山井梨沙氏が32歳の若さで社長に就任。初代社長である山井幸雄氏が登山用品、二代目社長山井太氏がキャンプ用品、そして山井梨沙新社長がアパレルと、三代続いて新事業を成功に導きながらスノーピークは続いています。

■スノーピークのマーケティング-徹底的なファンビジネス-

ここまでスノーピークの歴史を解説してきましたが、これだけでは現在の熱狂的な人気の理由を理解することは難しいでしょう。
ここからは、コロナ禍によるキャンプブームの後押しがあるとはいえ、なぜここまでスノーピークが根強い人気を誇るのかを解説いたします。

・強気の価格設定と全商品永久保証制度

スノーピークを初めて見た時に人がまず驚くのが、一つ一つのアイテムの価格の高さでしょう。
モンベルやコールマンといった競合と比較し、基本的に倍以上の値段で売られているスノーピークのアイテム。
その理由は初代や二代目社長の「自分が欲しいクオリティのものを作る」という理念に裏打ちされた確かな品質によるものです。
こうした価格設定と手抜きのない品質に加え、スノーピークは全商品永久保証制度を採用。
「高品質の一生物を買うならスノーピーク」というマインドをユーザーに植え付け、次第にアウトドア用品をスノーピークブランドで固めたくなる世界観を創出しているのです。

・購入金額によって異なる会員カードのランク

スノーピークファンを虜にしている仕組みの一つに、ランクごとに異なる会員カードの付与があります。
無料で作れてポイントが貯まるスノーピークの会員カードにはレギュラー、シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックと購入金額に応じたカードランクが作られており、ポイントの付与率や特典が異なっています。


出典:snowpeak

上位ランクであるブラックカードは購入金額100万円以上のユーザーのみが手にすることのできる特別なカード。
こうしたカードを用意することでユーザーの購買意欲の向上につなげています。

また、スノーピーク二代目社長の山井太氏の書籍によれば、2014年時点で、ブラックとプラチナの会員比率は全体の6-7%。
それに対し会員種別ごとの売上ではなんと全体の25%をこのブラック・プラチナ会員が支えていたことが記されています。
2013年以降、「ブラックカードホルダーナイト」と呼ばれる、ブラックカード保有者のみが参加可能なイベントを定期的に開催。
一部のユーザーにのみ特権的なイベントを行うことでブランドへのロイヤリティを高めています。
現在ではブラックよりさらに上のカードとして300万円以上の購入で手にすることのできるサファイアカードも登場。スノーピークの社員によれば、さらに非公開の上位ランクカードも用意されているようです。

・社員と客が一緒にキャンプで焚き火を囲む

スノーピークに対して熱狂的なファンが集まるもう一つの大きな仕掛けは、毎週のように会社が行うキャンプイベントにあると言えるでしょう。
スノーピークが持つキャンプフィールドで行われるイベントでは、社長や会長を含めた社員が多数参加し、ファンと焚き火を囲んでコミュニケーションを行います。

こうしたキャンプイベントは二代目社長が「Snow Peak Way」を通じて会社の危機を乗り切るアイディアを見つけた様に、常にユーザーからスノーピークに関するフィードバックを得ることを社として大事にしているからであることは間違いありません。
また、キャンプ場に訪れるメンバーはみなスノーピークの愛好家。
同じブランドを愛する者同士が時には社員も交えて焚き火の前で語らうことは、結束感やさらなるブランドへの愛着を醸成するうえで格好の方法だと言えるでしょう。
顔の見えない何百万、何千万人のユーザーに広告を打つのではなく、一部のファンのロイヤリティを徹底的に高め、1人あたりの単価をあげる戦略はスノーピークならではだと言えます。

出典:snowpeak

・あくまでアウトドアあってのアパレル

スノーピーク3代目社長である山井梨沙氏のホームグラウンドであるアパレル事業は、現在非常に好調に売り上げを伸ばしています。
永久保証制度がついたキャンプ用品は、いくらヘビーユーザーでもなかなか買い替え需要が発生しないもの。
カードのランクを上げるためにも、トレンドによって毎年アップデートされるファッションアイテムはファンの購買意欲を大いに刺激することでしょう。

また、スノーピークのアイテムはあくまでキャンプ・アウトドアがあっての商品であることを忘れていない点も評価されています。
例えば機能的なレインジャケットは特殊ポリウレタンコーティング技術によるセルフリカバー素材を組み込み、フィッシングの針や焚き火の火の粉で開いた小さな穴を自己修復うる特殊な素材が使われています。


出典:snowpeak

こうしたアウトドア製品ならではの機能性とファッション性を融合したスノーピークは、近年アウトドアに不向きなアイテムも出し始めているノースフェイス(The North Face)などと比較しても、ユーザーからは一本筋の通ったブランドのように感じさせます。

※参考:ノースフェイス×シュプリーム レザー製でアウトドアには不向きなマウンテンパーカー

出典:hypecrew

そして、スノーピークのアパレルコレクションでは、ルックブックにモデルではなく一般人を採用していることも大きな特徴です。
シーズンごとに自然に囲まれた暮らしを送る家族やご夫婦にフォーカスし、彼らの生活に密着しながらコレクションアイテムを着用した画像をルックブックに使用しています。
こうした点もアウトドアやキャンプという「本筋」から外れずにアパレルを展開するスノーピークならではの取り組みだと言えるでしょう。

※参考:2020AWシーズン ルックブック山尾さんご家族

出典:snowpeak

■「スノーピーク」の存在意義をユーザーに徹底的にアピール

古今東西のブランドを見渡しても、スノーピークほど「なぜあなたはこのブランド着るのか/使うのか」を世にアピールするブランドはなかなか存在しません。
スノーピークは、自然と触れ合う行為を「野遊び」と称し、野遊びをすることで文明社会によって人々から失われた「人間性を回復する」ことをブランドの至上命題としています。
こうしたスノーピークの「教典」はブランドサイトや店舗、イベント会場などで繰り返し周知されます。
ランク付けされた会員カード制度やファンとブランドの積極的な交流イベントの開催と合わさり、ある意味宗教的とも言えるこうしたスノーピークの姿勢は、同ブランドのコアファンの獲得の大きな要因だと言っても過言ではありません。

■今後スノーピークに待ち受けている課題

ここまでスノーピークの歴史や彼らの手がける卓越したマーケティング戦略について解説してきましたが、最後に今後スノーピークが直面するであろう課題について触れたいと思います。

・上場によるビジネス規模拡大が最大のリスク?

まず、スノーピークにとって最大のリスクは2014年に上場してしまったことだと言えるかもしれません。
株式市場に上場したからには、株主は株価上昇に向けて売上規模拡大を会社に対して強く訴えます。
しかし、現在のスノーピークのマーケティング戦略は、急激なユーザーの拡大とは相性があまり良くないことは火を見るよりも明らかです。焚き火だけに。

・エントリーユーザーの増加による特別感の消失

ここまで散々述べてきた通り、スノーピークはランク制の会員カードにより一部のコアユーザーに特別な体験と優越感を与えることで客単価を高める戦略を取ってきました。
しかし、今後スノーピークの人気が高まりエントリーユーザーが増えると、それまでブランドに多くの金を落としてきたコアユーザーが離れてゆく危険性があります。
プラチナカードやブラックカードの会員が増えれば、特別なイベントに参加できる可能性は次第に低くなり(すでにブラックカードホルダーナイトは倍率10倍の時もあるようです。)、彼らの優越感を満たせるイベントはその数を増やすことを余儀なくされるでしょう。

しかし、イベントの数を増やすことは特別感を阻害することにもつながり、ファンと会社の密なコミュニケーションをメインに据えていたスノーピークのマーケティング戦略は負のスパイラルに陥る可能性を秘めています。
他の様々なハイブランドがたどってきた歴史と同様に、コアユーザーから「昔は良かったのに、もう私たちのブランドではなくなってしまった」と思われないためにスノーピークがどう動いてゆくのか、若き3代目社長の動きにこれからも目が離せません。

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