カラフルなカモ柄やアイコニックな猿のキャラクターで知られるBAPE®ことA BATHING APE。
裏原宿文化の代表的ブランドであるこのBAPE®ですが、2023年から24年にかけて、スポーツファッションの巨人ナイキと、スニーカーを巡った熾烈な法廷闘争を繰り広げていました。
理由はBAPE®が長年にわたってリリースしてきたスニーカーのデザインがナイキのそれと酷似していたから。
しかし、少しでもスニーカーに詳しい人であればBAPE®のスニーカーは誰もがナイキのオマージュだと理解していたこともあり、スニーカーヘッズからは「なぜ今更?」という困惑の声も少なくありません。
今回の記事ではこの一連の法廷闘争を根本のきっかけから和解に至るまで徹底解説。
過去のナイキの訴訟事例などと共に、事件を深掘りいたします。
-
目次
- ■BAPE®のリリースしてきたBAPE STA™をはじめとするスニーカー
- ■BAPE STA™の誕生とこれまでのナイキとのやりとり
- ■ナイキが遂にBAPE®を権利侵害で提訴
- ■オマージュスニーカーに対するこれまでのナイキの反応
- ■なぜBAPE®はNikeから提訴されたのか
- ■【2024年4月更新】 訴訟の顛末:ナイキとベイプが和解
- ■さいごに
■BAPE®のリリースしてきたBAPE STA™をはじめとするスニーカー
出典:bape
BAPE®ことA BATHING APEは1993年にNIGO®氏によって設立。
NIGO®氏はのちにHUMAN MADEの設立やファレル・ウィリアムス(現ルイヴィトン メンズディレクター)とのブランド立ち上げ、そして2021年よりKENZOのアーティスティックディレクターを務めるなど、ファッション界の重要人物のひとりです。
NIGO®氏が作り上げたBAPE®はブランドのアイコンとも言える猿のトレードマーク、フーディ部分までジップを上げられる特徴的なパーカーやカラフルなカモフラージュ柄などが人気を集め、芸能人や海外セレブ含め多くのファンを持ったビッグブランドです。
出典:theillest
そんなBAPE®が2000年から毎年のようにリリースしているのがBAPE STA™をはじめとするスニーカーアイテム。
その見た目はナイキの名作スニーカーに酷似しており、ナイキのアイコンである「スウッシュ」を流れ星のマークにすげ替えたデザインとして知られています。
筆者の体感ではありますが、BAPE®のシューズを求める人々の多くはこの靴が「ナイキのスニーカーをベースにデザインされていることを理解しつつ」購入。
ナイキのスニーカーよりラグジュアリーなモデルとして、もしくは他のスニーカーヘッズとの差別化としてBAPE®のシューズを履いていたように思います。
出典:bape
こうしたある種BAPE®側のデザイン盗用ともとれる商品展開でしたが、ナイキから即座に抗議が入るようなこともなく、BAPE STA™は他のブランドとコラボプロダクトをリリースしたり、BAPE STA™が大手のセレクトショップなどでも並ぶような状況が今日に至るまで20年以上続いていました。
■BAPE STA™の誕生とこれまでのナイキとのやりとり
出典:minari-media
ナイキのエアフォース1に酷似したBAPE STA™が誕生したのは2000年。
当時ナイキのエアフォース1に惚れ込んでいたNIGO®氏でしたが、BAPE®店内にてエアフォース1を取り扱うことをナイキに断られてしまいます。
しかし、そこでNIGO®氏が取った行動はまさしく予想外。
ナイキのエアフォース1にデザインを酷似させていながら、スウッシュマークを流れ星のマークに差し替えたBAPE STA™を発表したのです。
出典:pinterest
BAPE STA™は当時のナイキがほとんど行わなかった3色以上の色使いやパテントレザーなどの素材が話題に。
ヒップホップ界隈やストリートファッション好きから絶大な支持を集めました。
もちろん権利に厳しいナイキがこれを見過ごすはずがありません。
NIGO®氏はその後2009年にナイキと協議。
米国におけるBAPE®の販路を減らすことを条件にBAPE STA™を黙認してもらう取り決めを交わしたそうです。
その後、2011年に香港のI.T.社にNIGO®氏がBAPE®を売却。
NIGO®氏の手を離れたA BATHING APEは2016年にBAPE STA™の販売を再開。当初はナイキの目を気にしてかデザインをエアフォース1からより離した見た目でリリースしていました。
しかし、2020年にBAPE STA™誕生20周年を迎えると方針転換が。
出典:monomax
2021年に再度リデザインを行い、よりエアフォース1に寄せた見た目となってしまったのです。
また、素材使いや色展開もNIGO®時代と比べナイキの模倣が多め。
カラーリングも本家と同じくツートンカラーで出すことが増えています。
■ナイキが遂にBAPE®を権利侵害で提訴
出典:twitter
そんな中、2023年の1月末になんとナイキがBAPE®を提訴。
ナイキの人気スニーカーのデザインを少なくとも5つのBAPE®スニーカーが「ほぼそのままコピーしている」とマンハッタン連邦裁判所にて主張しました。
ナイキの担当弁護士は本件について以下のように主張。
BAPE®は2005 年以来、米国で「権利侵害を伴う靴」を断続的に販売していたが、2021年に侵害の量と範囲を大幅に拡大した。
ナイキはBAPE®に彼らのデザインをコピーするのをやめるように頼んだが、BAPE®は拒否した。
ナイキの権利に対する重大な危険に発展しているため、ナイキは今行動しなければならない。
■オマージュスニーカーに対するこれまでのナイキの反応
エアフォース1やエアジョーダン、ダンクといったナイキの名作スニーカーは、BAPE®に限らずこれまで様々なブランドからよく言えばオマージュ、悪く言えばデザインを盗用されてきました。
こうしたスニーカーのデザイン酷似に対し、ナイキはどのような対応を行ってきたのでしょうか。
・ジョン・ガイガーの場合
出典:hypebeast
ナイキでかつてZOOMシリーズなどを手がけたジョン・ガイガー(John Geiger)はナイキを退社後、カスタムメーカーThe Shoe Surgeonとタッグを組み既存スニーカーのカスタムモデルを作るデザイナーとして活躍。
そんな中、ナイキのエアフォース1をベースにスウッシュをGeigerの頭文字である“g”に変更したモデルを発表。
ナイキはこれに激怒し、彼を商標権侵害で提訴することとなりました。
・エンダースキーマの場合
上質な革製品を得意とするエンダースキーマは、ナイキやアディダス、リーボックなどの名作スニーカーを模した革靴シリーズ「オマージュライン」を長年にわたってリリース。
その中にはナイキのエアフォース1やエアマックス90、エアジョーダン4などを模したシューズを多数リリースしています。
しかし、2023年に至るまで、ナイキはエンダースキーマを権利侵害で提訴したことはなく、それどころかナイキ本社の社長室にはエンダースキーマ製のエアジョーダン4を模したシューズがこっそり飾られているそうです。
また、アディダスは2019年に正式にエンダースキーマとコラボを行っています。
・RTFKTの場合
メタバース上などで着用するデジタルスニーカーを手がけるNFTブランド、RTFKT(アーティファクト)。
RTFKTがNFTとして2021年に販売したこちらの600足のデジタルスニーカーはわずか7分で完売し、3.5億円を売り上げ。
同シューズはNFTとしてバーチャル上で楽しめるほか、後日同デザインの実際のシューズが購入者に送られてくる仕様でした。
これらのデザインはどう見てもナイキのエアフォース1に酷似。
どこかのタイミングでナイキ側から訴訟問題に発展するかと思われていましたが、なんと同年12月にナイキによってRTFKTそのものが買収。
現在は正式にナイキ傘下のブランドとして、スウッシュを使ったNFTスニーカーを多数リリースしています。
■なぜBAPE®はNikeから提訴されたのか
ここまで、BAPE®の事例と比較するために幾つかのナイキオマージュのスニーカーを出しているブランドについてご紹介致しました。
前項で述べた事例を踏まえると、ジョン・ガイガーは「かつて自身がナイキに所属していた」という経歴がナイキ側から重く見られた可能性が高そうです。
エンダースキーマは材質を革で統一し、スニーカーではなく革靴として販売していることや、他の事例のようにナイキのスウッシュを別のデザインに差し替えるのではなく、取り払うのみに留めていることなどがお目溢しをもらっているのかもしれません。
そしてRTFKTは、メタバースやNFTという将来性のある業界のトップランナーとして、対立よりも協調を望んだナイキ側によって、なんと提訴どころか買収されるまでに至っています。
こうした中、ナイキはなぜ20年以上も黙認してきたBAPE®をこのタイミングで提訴したのでしょうか。
近年のBAPE®はBAPE STA™誕生20周年の記念企画を行ったり、アメコミ大手MARVALや、人気ブランドJJJJoundとコラボしたりといった活動を数多く実施。
出典:bape
本来ナイキのデザインあっての商品だったBAPE STA™が一人歩きし、それをあたかも自分たちのブランドの人気プロダクトのようにBAPE®側が取り扱ったからではないでしょうか。
また、ナイキのシューズは近年ますます様々なデザインのモデルをリリースしており、不可侵のトレードマークだったスウッシュに手を加えたナイキのスニーカーが多数リリースされていることも見落とせないでしょう。
ナイキのこうしたデザインのスニーカーに紛れてBAPE STA™が販売されることをナイキ側が嫌った可能性は十分にありえます。
現に、当サイトの公式Twitterアカウントで本件についてツイートしたところ、「BAPE STA™はナイキの許可をとっていなかった事に驚き」「今までコラボだと思っていた」等のコメントも多く、こうした誤った認識を止めるためにも訴訟に踏み切ったのではないでしょうか。
そして、極め付けとなったのがBAPE®とアディダスのコラボレーション。
出典:prtimes
ナイキのスウッシュからインスパイアされた流れ星のロゴが、ナイキ最大のライバルであるアディダスの3本線と同居しているという状況。
これがナイキの逆鱗に触れた可能性は十分に考えられます。
ナイキがついにBapeの靴を訴訟。元から気になってたけどいよいよ流通量が増えてきたからこのタイミングで…みたいなニュアンスかな。 pic.twitter.com/goh2WFdp6g
— FashionArchive.com (@FashionarchiveA) January 26, 2023
■【2024年4月更新】 訴訟の顛末:ナイキとベイプが和解
ナイキから訴えられて以降、商標訴訟の却下を求めて徹底抗戦の構えを見せていたBAPE®。
しかし、2024年4月29日、ナイキはニューヨーク裁判所にBAPE®との和解を報告しました。
声明によれば和解の条件としてBAPE®は問題となっていたシューズの製造中止や、デザインの変更に合意したとのこと。
販売中止となるのはBape Sta Mid、Court Sta、Court Sta High、デザイン変更はBape StaとSk8 Staとなると報道されています。
NIGO®氏のエアフォース1愛から生まれ、一度はお目溢しをもらっていたBAPE STA™。
NIGO®氏がブランドを去って以降も作られ続けていたこのシューズラインは、少しずつナイキの癇に障るようになっていったのでしょう。
これまでの様々なデザイン訴訟で勝利をもぎ取ってきたナイキが、改めてその強さを見せつける結果となった今回の事件。
かくして、1年に及んだスニーカーの法廷闘争は終わりを迎えたのです。
■さいごに
今回の記事では、大手ストリートブランド、BAPE®ことA BATHING APEをナイキが提訴した事件について過去の事例と共に考察しました。
ファッション業界はある意味オマージュによって成り立っている業界であり、各ブランドがそれをリスペクトと捉えて黙認するか、はたまた盗用として訴えるかはこれまでも千差万別でした。
大きくなりすぎたBAPE STA™を黙認できなくなったナイキは、ついにBAPE®と対峙。
当初はBAPE®も徹底抗戦の構えを見せていたものの、1年にわたる係争は蓋を開けてみればナイキの完全勝利だったと言えるでしょう。
今後、「ナイキっぽさ」を失ったBAPE STA™の人気が落ちるのか、はたまたオリジナリティを増やしたニューBAPE STA™が市場から受け入れられるのか。
今後もいちファッション好きとして注視してゆきたいと思います。