※本記事には映画「AIR/エア」のネタバレが含まれます。
1985年にナイキがエアジョーダン1を発売して以来、バスケットボールの神様マイケル・ジョーダンのシグネチャーであるエアジョーダンシリーズは世界中のバスケ好きやスニーカーヘッズを虜にしてきました。
そんなエアジョーダンシリーズを開発したナイキは数々の名作スニーカーを世に出してきた、まさにスポーツメーカーの頂点ともいえるブランド。
当然、ナイキとマイケル・ジョーダンのタッグは起きるべくして起こった必然のようにも感じられますが、実はそうではありません。
今回ご紹介する映画「AIR/エア」で描かれる、いわゆる「エアジョーダン前夜」のナイキは、頂点どころかコンバースやアディダスに大きく差をつけられ、契約する選手を探すのに四苦八苦するような状況だったのです。
今回の記事では、そんなナイキがNBAデビュー間近の若きマイケル・ジョーダンの契約獲得に向けて奔走する映画「AIR/エア」を徹底レビュー。スニーカーヘッズは必見です!
■AIR/エアのあらすじ
1980年代のナイキ社は、ランニングシューズに強くてもバスケットボール業界で中々芽が出ず、競合であるコンバースやアディダスに圧倒的な差を付けられていました。
業界内で「ナイキのバスケ事業撤退」の噂すら流れるほどのピンチの中、ナイキのバスケ部門に所属するソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)は、NBAドラフト3位のマイケル・ジョーダンに目をつけます。
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しかし、ソニー・ヴァッカロがエージェント経由でマイケルに接触しようとするも、どうやらナイキはマイケルの眼中に無い模様。
プレゼンの機会を貰うことすら拒否されたヴァッカロは、マイケルの母親であるデロリス・ジョーダンに直接会いに向かいます。
長年バスケットボールに傾倒し何としてでもマイケルを獲得したいナイキとヴァッカロが仕掛けた秘策とは…?
■AIR/エアの感想
出典:eiga
本作はナイキがマイケル・ジョーダンとのシューズ契約を勝ち取り、エアジョーダンが誕生するまでの物語。
つまり、現在エアジョーダンがあることを分かっている視聴者からすれば、結末がハッピーエンドとなることがあらかじめ約束された映画でもありました。
しかし、劇中でたびたび描かれる当時のナイキ社が置かれた状況の厳しさ、例えばコンバースと比較したバスケ業界におけるシューズのシェアや、アディダスの圧倒的な人気っぷりは中々に絶望感があります。
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特にアディダスに関する描写は凄まじく、当時のアディダス人気を牽引したRun-D.M.C.の映像や、クリス・タッカー演じるハワード・ホワイト(のちのジョーダンブランドVP)が「実はプライベートではアディダスを着ている(しかも偽物!)」と主人公に語るシーンは象徴的です。
また、劇中でマイケル・ジョーダン(役)の顔がほとんどスクリーンに映らず、彼が言葉を発するシーンも異様に少ないのも視聴者をハラハラさせます。
映画におけるマイケルのナイキに対する態度は一貫して氷のように冷たく、主人公らと初対面するシーンでも一人だけそっぽを向いているのが印象的でした。
このように、「本当にマイケルはナイキとこの後契約するのだろうか?」と思わせるようなシーンが多く、それゆえに逆境を乗り越えるべく奮闘するナイキメンバーが光っていたと言えるでしょう。
そしてこれは映画の感想とは少しズレますが、筆者が「AIR/エア」を鑑賞した日が公開初日だったこともあってか、映画館には多数のジョーダンファンと思わしき人が。
観客のエアジョーダン着用率がとにかく高く、いちスニーカーヘッズとして眼福でした。
当然、筆者もエアジョーダン1を着用して映画に向き合いましたよ!
エアジョーダン誕生秘話を描いた映画「AIR」が今日から公開なので観てきました。
当然公開初日から観るようなナイキ熱が高い観客が多いので、映画館ロビーにいる人たちの足元はこんな感じになります😎 pic.twitter.com/ZY9Cz0Tbhm— FashionArchive.com (@FashionarchiveA) April 7, 2023
■(※ネタバレ注意!) 映画で描かれたエアジョーダン1に関する小ネタ5選
出典:inquirer
ここからは、映画内で筆者が気になったナイキやエアジョーダン関連の小ネタをご紹介。
劇中で登場する小道具やセットにもスニーカーヘッズが「お!?」となる描写が多く、観るたびに発見がありそうです。
・AIR/エアの小ネタ①:劇中で最初に登場するエアジョーダン1は“シカゴ”モデル
映画内ではマイケルや彼の両親、そして代理人へのプレゼンテーションに向けてナイキ社内でエアジョーダンのモックアップを制作するシーンがあります。
エアジョーダン1の生みの親であるピーター・ムーア(マシュー・マー)がナイキメンバーに見せた最初のモデルは最も有名な“ブレッド”ではなく、白が多い“シカゴ”でした。
・AIR/エアの小ネタ②: ウィングマンロゴのエピソードは省略
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エアジョーダン1のアイコンとも言えるウィングマンロゴ。
このロゴはデザイナーであるピーター・ムーアが飛行機での移動中に見かけたパイロットウィング(米陸軍航空軍USAAF)のピンバッジにインスパイアされて作成。
しかし、本映画で上記のエピソードは省略され、プレゼンに向けたモックアップ作成段階から、ウィングマンロゴがシューズに配置されています。
・AIR/エアの小ネタ③:ナイキ社の棚にはこれまでの名作シューズや販促ポスターがズラリ
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映画AIR/エアにおいては、エアジョーダン1以外にも様々なナイキの名作シューズが小道具として登場。
ナイキ創業者であるフィル・ナイト(ベン・アフレック)の部屋に飾られているのは、ランニングシューズとして一世を風靡したコルテッツ。
ナイキ社の壁には一瞬ですがエアフォース1のポスターが映り、当時エアフォース1を履いていた”オリジナルシックス”のメンバーの姿も見て取れます。
このシーンは一瞬ではあるものの、それまで競合と同じように1つのシューズを色んな選手に履かせてプロモーションをしていた過去のナイキと、マイケル・ジョーダン専用のシューズをいちから開発するこれからのナイキの対比を明確に表しています。
・AIR/エアの小ネタ④:ジョーダン一家の来社をナイキは横断幕で歓迎
出典:usatoday
ナイキとマイケル・ジョーダンが契約する際のエピソードとしてよく知られているこの横断幕の話。
ナイキの熱意の現れともいえるこの歓迎の横断幕ですが、劇中でしっかり(そしてさりげなく)再現されていました。
劇中ではジョーダン一家にエアジョーダンのプレゼンを行う会議室の壁に、当該横断幕が掲げられています。
・AIR/エアの小ネタ⑤:NBAの規定違反となり罰金を払うエピソード
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ユニフォーム規定に違反するエアジョーダン1“ブレッド”をマイケルが試合で履き続け、ナイキがその罰金を肩代わりし、むしろそれをアピールすることでプロモーションとしたエピソードは非常に有名です。
劇中では当時のNBAのユニフォーム規定を逸脱しないようにシューズをデザインすると中々思うような良いモデルを作れないと、ナイキの社員らが頭を悩ませるシーンがあります。
そして、ナイキ社のジョーダン一家に向けたプレゼンのシーンでは、ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)が「シューズの規定違反についてもナイキが罰金を肩代わりする」と明言しています。
しかし、映画AIR/エアにおいて登場したエアジョーダン1は前述の通り“ブレッド”ではなく“シカゴ”。
出典:sortiraparis
そして、史実ではマイケルがナイキと契約後、プレシーズンマッチの時点ではまだエアジョーダンではなく赤黒のエアシップを着用。
白を基調としたブルズの他選手と比べてマイケルが目立ちすぎていると感じたNBAが、今後マイケルが赤黒を着用した場合罰金とする旨を通告しています。
その結果、マイケルにエアジョーダン1“ブレッド”を履かせる予定だったナイキは急いで“シカゴ”や“ブラック トゥ”を制作。
“ブレッド”をきっかけにNBAにナイキが罰金を払った事実はなく、あくまでCMとしてナイキが吹聴していた内容が伝説のように語られていると言えるでしょう。
そして、映画においては小道具のエアジョーダン1を“ブレッド”ではなく“シカゴ”にしたことで、このあたりのエピソードで矛盾点が生まれてしまったのかもしれません。
■さいごに
今回の記事では、2023年4月7日から全国で公開された映画「AIR/エア」について解説いたしました。
劇中ではマット・デイモン演じるソニー・ヴァッカロと、マイケル・ジョーダンの母デロリス(ヴィオラ・デイヴィス)にフォーカスが当てられ、誰もが知るマイケルの後の活躍ではなく、そこに至るまでの周囲の努力がメインで描かれていました。
記事にてご紹介した以外にも映画には様々な小ネタや気になるシーンが満載。
スニーカーが好きな人、バスケットボールが好きな人は必見の映画だと言えるでしょう。
なお、本サイトでもマイケル・ジョーダンがナイキと契約するまでの物語を記事と動画の2方向から解説中。
気になった方は是非本記事と合わせてご覧ください。