2022年2月にその加入が発表され、2023年より本格的にシュプリーム(Supreme)のクリエイティブに参画することとなったトレマイン・エモリー(Tremaine Emory)。
シュプリームとしては初めての黒人クリエイティブディレクターとなる彼は、既に自身のブランドデニムティアーズ(DENIM TEARS)を運営。
シュプリームでの経験を踏まえて人気ブランドを立ち上げた過去のデザイナーはいても、既に人気ブランドを自身で運営している人物がシュプリームにジョインするのは稀。
今回の記事ではこのトレマイン・エモリーにフォーカスし、なぜ彼がシュプリームに選ばれたのかを、彼のこれまでの活動と共に解説。
また、トレマイン加入によるシュプリームの今後についても考察します。
ぜひ最後までご覧ください。
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目次
- ■これまでのシュプリームのディレクターやデザイナー
- ■なぜシュプリームのデザイナーはあまり知られていないのか
- ■新ディレクター トレマイン・エモリーの軌跡
- ■人気に翳りの見えるシュプリームのテコ入れ?
- ■さいごに
■これまでのシュプリームのディレクターやデザイナー
出典:whatthespots
近年のファッション業界においては、ブランドを語る上でデザイナーやディレクターにもフォーカスが当たることが多く、その彼ら/彼女らの就任や移籍はブランドの人気や売上の増減に直結していると言えるでしょう。
近年ではルイヴィトンがストリートブランド出身の故ヴァージル・アブローを起用したことや、バーバリーがリカルド・ティッシをアサインしたことが大きな話題に。
また、エルメスのアーカイブ品の中では、マルタン・マルジェラがデザインを手がけていた通称:マルジェラ期のアイテムが特に人気なのも良い例です。
そんな中、意外とこれまでディレクターやデザイナーにスポットが当たる機会が少なかったのがシュプリーム。
出典:klekt
勿論、過去にシュプリームのデザインを手がけていた人物が「元シュプリーム」の実績を引っ提げ、自身のブランドや他ブランドのデザイナーに就任するケースは多々あります。
しかし、歴代のシュプリームのディレクターやデザイナーを振り返ってみると、就任のタイミングから既に一定の知名度を得ているデザイナーは殆ど居なかったのではないでしょうか?
■なぜシュプリームのデザイナーはあまり知られていないのか
こちらの写真にうつる3人、左からルーク・メイヤー、ブレンドン・バベンジン、そしてアンジェロ・バクは、それぞれ過去にシュプリームのディレクターやヘッドデザイナーを務めていた人物。
現在ではそれぞれ自身が立ち上げたブランドを成功させ、ルーク・メイヤーに至っては人気ブランド「ジルサンダー」すらも手掛けています。
しかし、先の章で述べた通り、シュプリームのデザイナーやディレクターは「退任後のキャリア」についてフォーカスが当たることは多くても、「在任中」に大きな話題を集めることは多くありません。
その理由を紐解いてみると、シュプリームの商品の作り方、すなわちOEM生産にあると考えられるのではないでしょうか。
出典:fashion-navi
ファッションブランドの中には、シルエットやデザインをこだわり抜いて商品を作り上げる生産方法ではなく、OEM (Original Equipment Manufacturing)と呼ばれる手法を用いるブランドも数多く存在。
OEM体制では、ブランドがOEM会社に商品の設計など詳細な情報を提供し、その商品の製作や組み立てを依頼して自社商品として販売しています。
シュプリームも、アメリカやカナダのOEM会社から買い付けたTシャツやスウェットにプリントなどを施し、シュプリームの商品として販売する手法を主としています。
こうしたOEMでは1枚あたりのアイテムの生産コストは下げられる一方、こだわり抜いたシルエットやデザインのアイテム制作には向かないという弱点があります。
つまり、ファッションにおけるデザインや素材に重きをおく人物であればあるほど「シュプリームのデザイナー」に向かないのではないでしょうか。
こうした経緯を踏まえると、前述のルーク・メイヤーがジルサンダーやOAMCにて、最高級の素材とテーラリング技術を思う存分発揮している状況にも合点がいきます。
※ジルサンダーのコレクションでのルーク・メイヤーとルーシー・メイヤー夫妻
出典:wacoca
また、シュプリームの商品の良さは様々なサブカルチャーやアートへの造詣や他ブランドとのコラボレーション。
すなわちデザイナー/ディレクター就任の要件として求められる技能が他ブランドとは違います。
出典:pinterest
そもそもシュプリーム側も高度なデザイン技術よりも、ストリート/スケーター文化への理解やサブカルチャーへの知見を優先しているのかもしれません。
■新ディレクター トレマイン・エモリーの軌跡
出典:niood
それでは、現在シュプリームを引っ張っているトレマイン・エモリーとはどんな人物なのでしょうか。
ロンドンにてマークジェイコブスで10年近く働いたのち、Yeことカニエ・ウェストのクリエイティブコンサルタントを2年務めたトレマイン・エモリー。
ステューシーのアート&ブランドディレクターも務め、2019年に自身のブランドとなるデニムティアーズ(DENIM TEARS)を立ち上げました。
また、数々の著名人を集めるパーティーやブランドコラボなどを手がけるプロジェクト、ノー・バカンシー・イン(No Vacancy Inn)も主催。
故ヴァージル・アブロー、エイサップ・ロッキー、リック・オウエンス、そしてもちろんカニエ・ウェストなどが参加する超豪華パーティーが幾度となく開催されています。
※トレマイン・エモリーと故ヴァージル・アブロー、カニエ・ウェスト
出典:the-sun
そんなトレマイン・エモリーが手がけるデニムティアーズはメッセージ性やアイテムに込められたストーリーに重きをおいたブランド。
過去のインタビューでトレマインは『ファッションではなく、スタイル/ストーリーテリング/コミュニティを重視する』と述べています。
デニムティアーズでは綿花やインディゴのプランテーションに従事した黒人奴隷に思いを馳せたデザインを多数リリース。
白い綿花を散りばめたデザインや、インディゴに長時間触れていたことで藍色に染まった奴隷の手にフィーチャーしたデニムを提案しています。
また、コンバースとのコラボレーションでは、汎アフリカ主義をベースにアメリカ国旗を緑/黒/赤に変更したデザインを採用。
アメリカ社会における黒人の立ち位置について深く切り込む現代アーティスト、デイヴィッド・ハモンズによる星条旗のカラーアレンジをコンバースのスニーカーに取り入れました。
■人気に翳りの見えるシュプリームのテコ入れ?
出典:hypebeast
こうしたトレマイン・エモリーの活動から考えると、彼とシュプリームとの相性は非常に良いように感じます。
トレマインのメッセージ性やストーリーに重きを置いた姿勢は、シュプリームのこれまでのクリエイションの方向性と矛盾が少ないはず。
これまで以上にアイテムひとつひとつへの考察しがいのあるブランドになるのではないでしょうか。
出典:sepsale
また、これまでシュプリームに「育てられ」、のちに大きく羽ばたいていった多くのデザイナーとは異なり、すでに一定の実績と知名度を持ったトレマイン・エモリーの起用はシュプリームの方針転換の表れ。
シュプリームがVFコーポレーション傘下に入って以降、実はVFが予想していたほどの売上/利益をシュプリームはあげることができていません。
ストリートファッショントレンドに翳りが出ている以上当然の流れではあるものの、シュプリームやVFの焦りが無かったとは言えないでしょう。
こうした状況もあって、既に実績のあるトレマイン・エモリーの起用が決まったのかもしれません。
■さいごに
今回の記事ではシュプリームのデザイナーやディレクターに関する分析、そして新クリエイティブディレクター トレマイン・エモリーについて解説しました。
直近のシュプリームの動向を追いかけてみると、決算報告会にてトレマインが店舗の移転や新規出店といったテコ入れについて言及した、という話も出ています。
2017年に退任し「アウェイク NY(AWAKE NY)」を立ち上げたアンジェロ・パク以降、クリエイティブディレクターが不在だったシュプリーム。
デザインだけでなく店舗のデザインや場所の選定、広告戦略に至るまで全てを統括するクリエイティブディレクターの久々の就任は、シュプリームに新しい風をきっと吹き入れてくれることでしょう。