アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)といえば、90年代から00年代にかけて一世を風靡するも、その後「全米で最も嫌われるブランド」にまで堕ちたカジュアルウェアブランド。
そんな ”アバクロ” が今、半導体大手エヌビディアをしのぐほどの高い株価成長を遂げ、大復活しているのをご存知でしょうか?
今回の記事では、凋落と復活を繰り返してきたアバクロの歴史を紐解きながら、ブランドの今後を考察します。
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目次
- ■アバクロ最初の危機
- ■ジェフリーズCEOによって大人気ブランドに
- ■アバクロの”差別化”戦略が時代にそぐわなくなってゆく
- ■「全米で最も嫌われるブランド」からの復活
- ■マイク・ジェフリーズ前CEOが逮捕
- ■さいごに
■アバクロ最初の危機
1892年に創業し、狩猟や探検向けの用品を販売していたアバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)。
日本では「少し前に流行ったブランド」というイメージの強いアバクロですが、実は100年以上の歴史を持ち、かつてはルーズベルト大統領やヘミングウェイにも愛されたブランドなのです。
しかし、創業から80年を数える頃には業績が悪化。
1976年には連邦破産法第11章の適用を申請することとなります。
会社として破産するもブランドとしては残ったアバクロは、マイク・ジェフリーズという一人の実業家によって大きく作り変えられることとなります。
■ジェフリーズCEOによって大人気ブランドに
出典:nssmag
1992年からアバクロの会長兼CEOとなったマイク・ジェフリーズは、アバクロのターゲットを「見栄えの良い人」だけにしたいと宣言。
「問題を抱えている会社は、若者、老人、太っている人、痩せている人など、あらゆる人をターゲットにしようとしている」
と述べ、着た人が自分を「アバクロを着るに値する人間だ」と優越感に浸れるようなブランドにすることを試みます。
出典:people
店内は照明を極限まで絞り、窓を塞いで秘密クラブのような雰囲気に変更。
強烈なコロンの香りと爆音で流れるロックミュージック、そしてマッチョな白人男性店員が半裸で踊り狂うという、独特の店舗スタイルを打ち立てました。
もちろん、アバクロが人気となったのはこのルッキズムに満ちた”差別化”だけではありません。
「カジュアルラグジュアリー」をスローガンに、ヘビーウェイトでヘタらないフーディーやTシャツをリリースしたアバクロはイケてるブランドとして大人気に。
当時アメリカ・ボストンの中学に通っていた私にとっても、アバクロは”校内の人気者が着るブランド”だったのを覚えています。
■アバクロの”差別化”戦略が時代にそぐわなくなってゆく
そんなアバクロでしたが、障害者や非白人、そして”アバクロから見て容姿に優れていない人”に対する蔑視的なメッセージを盛り込んだプロダクトが度々登場。
その度に局地的な不買運動や商品回収騒ぎなど、小さな炎上を巻き起こすようになります。
※アジア人蔑視的なアバクロのTシャツ
出典:ffw.uol
当時のプロダクトを見返してみると、まだSNSが発達していなかった頃だったため、この程度の炎上で済んだとしか思えないアイテムも多数…
アバクロのメインターゲット層だったティーンエイジャーたちの価値観も時代と共に変遷。
容姿に優れスポーツ万能な白人であればスクールカーストの頂点として勝手気ままに振る舞うことのできていたアメリカの学校生活において、少しずつ多様性という名の揺り戻しが広がっていったのです。
出典:screenrant
象徴的だったのが、2002年に放映され大ヒットとなった映画『スパイダーマン(2002)』。
主人公ピーター・パーカーをいじめ、のちに盛大に反撃を喰らうこととなる”学校のイケてる生徒”の服装が、全身アバクロだったのです。
映画の監督を務めたサム・ライミにとっても、アバクロンビー&フィッチはまさに学校のトップカーストが着る服というイメージだったのでしょう。
トップカーストとそれ以外を分ける服として栄華を極めていたアバクロンビー&フィッチですが、社会通念の変化によってこのイメージはしだいにアバクロの成長を促進するものから阻害するものへと変化。
ついには業績の悪化に伴い、2014年にマイク・ジェフリーズはブランドから退任を余儀なくされてしまいます。
■「全米で最も嫌われるブランド」からの復活
出典:fortune
マイク・ジェフリーズCEOが退任した翌2015年には、アバクロはなんと「全米で最も嫌われるブランド」という不名誉な称号を獲得。
再起を図るべく、2年間のCEO不在を経て2017年にフラン・ホロウィッツが新CEOに就任します。
彼女は前CEOが徹底していた “差別化戦略”を捨て去り、ターゲット層の”多様化”に方針転換。
かつてアバクロに熱狂した30~40代へのアプローチを意識しつつ、Z世代女性に向けてTikTokやインスタリールを活用したマーケティングにも注力。
サイズ展開も豊富にすることで、より幅広い層を取り込む方向性にシフトしました。
こうした戦略が功を奏し、2023年にはアバクロ株が285%も高騰。
米S&P1500種株価指数で最も上昇率の高い銘柄となり、年間40億3000万ドル(1ドル160円計算で6,448億円)を稼ぎだすブランドに復活したのです。
かつてマイク・ジェフリーズ元CEOが「問題を抱えている会社」と忌み嫌ったコンセプトへと方向転換し業績を回復させたアバクロ。
あるいみ唯一無二でなくなってしまったアバクロは、今後も成長を続けられるのでしょうか?
下降と上昇を幾度となく繰り返してきたブランドだけに、その行く末にも注目が集まっています。
■マイク・ジェフリーズ前CEOが逮捕
2024年10月22日、アバクロンビー&フィッチの前CEO、マイク・ジェフリーズが性的人身売買に関与したとして逮捕されました。
ジェフリーズはCEO時代、アバクロでの仕事を求める男性を性的に搾取していた、いわゆる「性的人身売買」に関与していた疑いがあるとのこと。
日本ではジャニーズのジャニー喜多川氏、アメリカではジェフリー・エプスタインやショーン・”ディディ”・コムズなど、立場や権力を利用した性加害がスキャンダルとなる人物は後をたちません。
モデルや購買層の「見た目の良さ」に異常なほどこだわっていたジェフリーズ前CEOの闇が、暴かれようとしているのかもしれません。
■さいごに
今回の記事では、奇跡の大復活を遂げたアバクロンビー&フィッチについて考察しました。
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