あなたはSHEIN (シーイン)というブランドをご存知でしょうか。SHEINは今世界中の10〜20代を中心に爆発的な人気を集めているファストファッションブランドです。
原宿のストアや、世界各国で行う期間限定のポップアップを除き、実店舗をほとんど持たずにECに特化しているのがSHEINの大きな特徴。
コロナ禍の影響で多くのファストファッションブランドが売上を落とし店舗閉店を余儀なくされた中、2021年で約2兆4000億円という驚異的な売上を叩き出しました。
また、ファッションECサイトとしてのトラフィック数(サイトに訪れるユーザーの量)では、すでにNIKE/ZARAを超えて世界No.1に君臨。
今回の記事では、そんな謎に包まれた巨大ファッションブランド、SHEINについて徹底解説。
なぜここまで急成長ができたのかを分析します。
■SHEINの創業者・許仰天とはどんな人物?
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SHEINの創業者である許仰天(クリス・シュー)は1984年に山東省の貧しい農家で生まれました。
他の多くの山東省の家庭同様、教育を非常に重視する両親の元で育った許仰天は青島科技大学に入学し国際貿易を専攻。
大学卒業後は専攻を生かして中国初の越境ECサービスプロバイダーの会社に入社。
同社でSEO (検索エンジン最適化)を担当することになります。
2008年10月、許仰天は企業のために退職。
王小虎と共に南京電威信息科技を設立し、SEO の経験を活かして越境 EC サイトを立ち上げました。
ここで主なサイトの商材としてファッションを選んだことが、のちのSHEINに繋がってゆきます。
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翌2009年、許仰天が婚約者と一緒に蘇州でウェディングドレスを購入した際、彼は蘇州のウェディングドレスが良質であるだけでなく、外国のウェディングドレスに比べて非常に安いことを発見しました。
「ウェディングドレスの販売代理」というビジネスアイデアを思いついた許仰天でしたが、パートナーの李鵬と王小虎はこの考えには賛同することはありませんでした。
許仰天は自身のチームとともに2人の元を去り、2009 年から 2012 年までの 3 年間、海外消費者向けの低価格でカスタムメイドのウェディングドレスサービスを実施。
そこで得た資金を元に、許仰天は「Sheinside」の名で2012年に海外顧客向けの婦人服販売サイトを設立しました。
Sheinsideはわずか1年で登録ユーザー25万人を突破。
その後2015年にはSHEINにリブランディングされ、現在の事業が本格的に立ち上がることとなります。
■SHEIN (シーイン)とはどんなブランド?
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ウェディングドレスの海外販売からスタートし、2012年にSheinside、そして2015年よりSHEINとして再スタートした本ブランド。
多くのベンチャーキャピタルが積極的に投資を行い、ユニコーンならぬデカコーン(企業価値が100億ドル[約1兆900億円]を超える巨大未上場企業)として大きな注目を集めています。
SHEINの大きな特徴は商品点数の多さと圧倒的な安さ、そして実店舗を持たないEC100%であるという点です。
・商品点数の多さと驚異的な生産スピード
毎日なんと3000点以上もの商品が新たにリリースされるSHEINですが、どの製品も100着程度のミニマムロットでまずは生産されています。これらの商品はリリースされた後の人気に応じてすぐさま追加生産がなされるシステム。
これにより需要の読み違えによって不人気商品が大量に死蔵されるリスクを極限まで抑えることが可能です。
通常ファッション業界において、アイテムの追加生産は実は大きなリスク。
例えば7月に発売した冬向けのコートが人気を集め、追加生産を工場に依頼すると、普通再びそのコートが店舗に並ぶのは早くて12月や1月。
その頃には需要が大きく減退していることが考えられるため、多くのファッションブランドは売り切りスタイルでアイテムを生産しております。
その結果、当たると見込んだ商品が大外れし在庫余りとなり、毎シーズンのセールがブランドの収益を圧迫することとなるのです。
そんな中、SHEINは広州にある調達ハブから車で5時間以内の場所にあるメーカーとしか契約をしないという方針を発表。
また、独自のサプライチェーン・マネジメント・ソフトウエアを販売メーカーに導入させることで、SHEINは顧客のリアルタイムの検索データや購買履歴を共有し、瞬時に追加生産や新しいアイテムの製作を指示することができるのです。
こうした工場との緊密な連携によって、SHEINは製品の企画から販売までを最速3日で完了するというファッション業界の常識を大きく覆すサプライチェーンを構築しているのです。
・圧倒的な安さ
SHEINのサイトを訪れると驚かされるのはその圧倒的な商品の安さ。
前述の通り毎日3000点以上の新商品が掲載されるSHEINでは売れない商品があっという間にセールにかかり、アイテムによってはなんと50円未満で購入することも可能です。
同じく商品の開発スピードが早く安価な商品を数多くリリースすることで有名なZARAは、本社スペインの近隣国で生産された商品を世界中に展開。
店頭のアイテムは一度売り切れると補充されることなく、別の商品が陳列されてゆきます。
対してSHEINでは本社と工場が同じ広州にあり、工場から調達ハブまでの輸送コストを大幅削減。
なおかつ100着程度のミニマムロットという工場が最も嫌がる小規模生産を実現。
一説にはファッション業界が長らく工場に対して強いてきた60〜90日後支払いという慣習を破り、期日通り支払いを行ったことで工場からの信頼を勝ち得たとも言われています。
通常のファッションアイテムの値段には、店舗の人件費、売れのこった際の在庫リスク、値下げ前提の利益上乗せなどが組み込まれた価格である場合がほとんど。
SHEINはこうしたコストを極力抑えることで圧倒的な低価格を実現。
そして消費者は圧倒的低価格であるがゆえに、SHEINのアイテムの中からいくつかの商品で迷った際、すべて購入してしまうことがしばしばあるのです。
・越境ECというSHEIN創業者のバックグラウンド
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SHEINの創業者・許仰天(クリス・シュー)がアパレル・ファッション畑の人間ではなかったことが、こんにちのSHEINの大成功の要因の1つだと言っても過言ではないでしょう。
越境EC、いわゆる国を跨いだECビジネスの世界に許仰天が居たことは中国で起業する多くの人々とは違った視点を彼にもたらしました。
最初から海外(中国の外)を向いていたことで、世界に通用する洗練されたECサイトのデザインが生まれ、彼がアパレル業界でキャリアをスタートしなかったからこそ、アパレル業界の慣習を打ち壊すような数々の施策によってSHEINは成長を遂げました。
また、現在220の国・地域でサービスを展開するSHEINですが、米国やヨーロッパでの人気とは裏腹に中国本土においてはまだほとんど知名度を持っていません。
多くの中国の大企業が、人口の多い中国での成功をベースに大きな売上を出しているのに対し、SHEINは2兆4000億円という売上を持ちながら、まだ中国市場という大きなパイに手をつけていないのです。
近年、中国に次いで大きなマーケットとなっているインド市場。中国企業の参入を取り締まるインドの規制を掻い潜るため、SHEINは近年本社機能をシンガポールに移しました。
シンガポールの企業として今後は上場も視野に入れているSHEIN。
今後ますますの成長が期待できそうです。
・画像解析AIによる商品開発
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SHEINがこれほどまでに多くの商品をコンスタントに作っている背景には、強力な画像解析AI「知衣」の存在があります。
ネットに溢れるモデルが服を着ている写真を解析し、AIが「モデルの性別や国籍」「季節」「服の種類、スタイル」「製造法」「型紙の種類」「素材」「柄」などを分類しタグ付け。
これを分析しながらデザイナーが新商品を開発することで、市場ニーズにマッチし、なおかつ既存商品に類似しすぎないデザインをつくりあげることができるのです。
ちなみに「知衣」はSHEIN以外の中国アパレル企業大手の多くが採用。
デザイナーの仕事効率化に大きく寄与しています。
・関税回避
今回、SHEINの商品を筆者は初めて購入してみました。
帽子2点とクッションカバー1点で合計1000円ちょっとという価格感にも驚きましたが、10/8に購入し10/14に到着するという越境ECではありえないスピード感にも驚かされました。
また、なにより驚いたのは関税が無いこと。
届いた包みにSHEINの文字はなく、一般消費者への個別配送という形で小口貨物を使用。
あくまで消費者が個人輸入をしたかのように見せることで輸出・輸入関税を回避しているのには驚かされました。
・Z世代のサステナビリティ疲れにマッチ
ここまでSHEINのビジネスモデルについて解説しましたが、多くの方はこのスタイルがサステナビリティやSDGs にはマッチしないことを感じ取っていることでしょう。
しかし、現在SHEINのユーザーの多くはアメリカやヨーロッパのZ世代と呼ばれる人々。これまで多くのビジネス誌やニュースなどで「サステナビリティ意識が高い」とされてきた世代です。
私は、行き過ぎたサステナビリティやSDGsの機運に息苦しさを感じている人々が増え、反動でSHEINのようなビジネスモデルが支持を集めているのでは無いかと感じています。
日本でも最近「サステナビリティ疲れ」という言葉がメディアに取り上げられるようになりましたが、突然目覚めたかのように多くの企業がSDGsへの取り組みを喧伝したり、サステナビリティか否かを相互監視するような社会に対する反動が生まれ始めているようにも思います。
こうした状況が大量生産、大量消費のSHEINモデルの成長を生んでいるのだとしたら、これほどの皮肉は無いでしょう。
■さいごに
今回は謎の巨大アパレル企業、SHEIN(シーイン)について解説しました。
一時は世界最大のアパレル企業にまでなったユニクロでも、EC化率は10%前後。
そしてファストファッションの雄であるZARAはコロナ禍で世界1200店舗を閉店しています。
そんな中店舗を持たないSHEINが急成長を遂げている現在のアパレル市場が今後どのように変化してゆくのか、これからもウォッチしてゆこうと思います。