スケートボードショップから始まり、ストリートやサブカルチャーにフォーカスしたアパレルアイテムが人気なシュプリーム(Supreme)。
2024年には設立30周年を迎え、名実共にNo.1のストリートファッションブランドとして人気を誇っています。
しかしこのシュプリーム、絶大な人気の割に実店舗は世界にたった17箇所。
セレクトショップでの取り扱いもDover Street Marketのみとなっています。
そんなシュプリームの店舗数が世界一多いのが、日本。
東京、名古屋、大阪、福岡にそれぞれ店舗を構え、しかも東京エリアでは徒歩圏内に3店舗も存在しています。
世界中で大人気でありながら、正規ルートでの販路が極端に少ないシュプリーム。
なぜ日本がここまで優遇されているのでしょうか?
今回の記事ではこの謎にフォーカスし、日本におけるシュプリームの取り扱いの歴史や、代理店の関係をどこよりもわかりやすく解説。
ぜひ最後までご覧ください。
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目次
- ■日本人のシュプリーム人気とプラザ合意
- ■裏原宿文化とシュプリーム
- ■大村健一と藤原ヒロシ
- ■シュプリームとワングラムの代理店契約
- ■【豆知識1】ジェームズ・ジェビアと藤原ヒロシの関係
- ■【豆知識2】ワングラムで働いたストリート界の大物たち
- ■さいごに
■日本人のシュプリーム人気とプラザ合意
1994年にニューヨークの小さなスケートボードショップから始まったシュプリーム(Supreme)。
生粋のスケーターたちがたむろする “居場所” だったこの店舗ですが、90年代ニューヨークにやってくる日本人観光客の人気スポットという顔も持っていました。
出典:ameblo
多くの日本人観光客が「お土産」としてシュプリームのアイテムを買い求めるようになった背景にあったのが、1985年のプラザ合意を契機とする円高転換。
それまで1ドル=230円台だったのが1987年には120円台になったとあれば、バブル景気に沸く日本人にとってアメリカ旅行も夢ではありません。
※1996年放送 MTV JAPANで紹介されるシュプリーム 1号店の様子
出典:youtube
シュプリームがOPENする1年前にはバブル崩壊となったものの、引き続きの円高傾向によって日本人観光客は減ることはなく、加えて今度は裏原宿文化の台頭が日本人の若者の視線をアメリカのスニーカーやストリートファッションに向けさせました。
■裏原宿文化とシュプリーム
1990年に藤原ヒロシ氏やSk8thing氏らによってブランド、GOODENOUGH(グッドイナフ)が誕生。
それに続くように1993年にNIGO氏がA BATHING APE(アベイシングエイプ)をスタートさせ、1996年には西山徹氏がWTAPS(ダブルタップス)を立ち上げ。
次々と裏原宿界隈でストリートブランドが立ち上がる中、NOWHERE(ノーウェア)やHECTIC(ヘクティク)といったストリート/スケーター系の人気ショップも誕生。
出典:harao
ストリートファッションやスニーカーに対する熱量がドンドンと高まる中、円高であることを活かしてアメリカへ買付に飛ぶバイヤーが登場します。
時を同じくして、先述の藤原ヒロシ氏やNIGO氏といったカリスマたちがこぞってシュプリームを着用。
HECTICなどでも取り扱いが始まったことで、NYの小さな店舗ブランドに過ぎなかったシュプリームの知名度は一気に上昇。
バイヤーの買付リストに「Supreme」の名が加わるようになります。
そして、円高と裏原宿文化によって誕生した日本人バイヤーのひとりに、1993年から買付ビジネスを始め、96年より「ワングラム」の名で会社化した大村健一氏という男性が居ました。
■大村健一と藤原ヒロシ
出典:hillslife
東京育ちの大村健一氏は高校時代から原宿で遊び、1986年にディスコクラブ「モンクベリーズ」のスタッフに。
藤原ヒロシ氏のバイオグラフィ「丘の上のパンク(2009)」によれば、この時にモンクベリーズにてDJをしていた藤原ヒロシ氏と出会い、親交を深めたとのこと。
モンクベリーズ退職後にアメリカを1年間放浪した大村健一氏は、在米中に何度か友人から洋服やスニーカーの買付を頼まれたのをきっかけに、買付ビジネスを学びます。
出典:aucview
その頃、すでに国内の雑誌では藤原ヒロシ氏が様々なアイテムを紹介するコラムが人気を呼んでおり、彼のレコメンドしたアイテムを大村氏が米国でかき集めるようなことも多かったそう。
大村氏はアメリカと日本を行き来しながら、買付するアイテムについて藤原ヒロシ氏から「勉強」をしていたと書籍で語っています。
こうした買付ビジネスを行う最中、大村氏はシュプリームの創業者、ジェームズ・ジェビアと邂逅するのです。
■シュプリームとワングラムの代理店契約
ジェームズ・ジェビアと出会い、意気投合した大村健一氏。
2010年に行われたKAWSとジェームズ・ジェビアの対談インタビューによれば、当時ジェビアはシュプリームを「ブランド」ではなく、単なるスケートショップとしてしか見ていなかったそう。
そんな中、シュプリームに大きな可能性を感じた大村氏は、1996年にワングラムを立ち上げシュプリームと専属契約。
日本国内の各セレクトショップにシュプリームのアイテムを卸すかたわら、日本でシュプリームの路面店をオープンすることをジェビアに打診します。
1998年6月に代官山シュプリームをオープンさせると、同年のうちに大村氏は立て続けに大阪、福岡にも店舗をオープン。
これによってジェビアは、日本に突然誕生した3つの店舗を空っぽにしないために、シュプリーム製品の増産を余儀なくされたそう。
つまり、大村氏が日本で一気に3店舗も路面店をオープンしたがゆえに、シュプリームはスケートショップから「ブランド」になったのだと言えるでしょう。
その後、2006年にはシュプリーム原宿店、2008年に名古屋店、2012年に渋谷店がそれぞれオープン。
過剰とも思えるシュプリームの「日本贔屓」は、こうした歴史ゆえのことなのでしょう。
■【豆知識1】ジェームズ・ジェビアと藤原ヒロシの関係
1994年にシュプリームをオープンするまで、ニューヨークでセレクトショップ「UNION」の運営やStüssy(ステューシー)の東海岸進出に尽力していた、ジェームズ・ジェビア。
ステューシーを取り扱っていたUNIONにて、ひっきりなしに訪れる日本人観光客がこぞって同ブランドを買い求める様に感嘆したジェビアは、ショーン・ステューシーにNYでの路面店を開くことを打診。
これが1991年にステューシーのニューヨーク店がオープンするきっかけになったそう。
※ショーン・ステューシーとジェームズ・ジェビア
当時国内では藤原ヒロシ氏が日本におけるステューシーの認知に一役買っており、ショーンはいつもジェームズ・ジェビアに「ヒロシ、ヒロシ」と彼の話をしていたようです。
ショーンの紹介で藤原ヒロシ氏と邂逅したジェームズ・ジェビアは、その後1994年にシュプリームをオープン。
すると、同じく多くの日本人観光客やバイヤーが商品を求めて店舗に訪れたのですから、ジェビアはきっと改めて藤原ヒロシ氏の影響力や、当時の日本人の熱量に驚かされたことでしょう。
ちなみにジェームズ・ジェビアが1996年に大村健一氏と共に訪日した際、改めて藤原ヒロシ氏をジェビアに紹介したそう。
「丘の上のパンク(2009)」にて大村氏は当時を振り返り、『ヒロシくんは人との繋がりがすごい』と語っています。
■【豆知識2】ワングラムで働いたストリート界の大物たち
ワングラムが会社化された1990年代後半は、まさに裏原宿ストリート全盛期。
「エアマックス狩り」のエピソードでも知られる名スニーカーエアマックス95の登場や、バスケ漫画SLAM DUNKのアニメ放送。
スニーカー/ストリートカルチャーの隆盛に呼応するように、様々なブランドやショップが誕生した時期でもありました。
出典:fashionsnap
そんな折、ワングラムがシュプリームと契約してから約1年間同社に所属していたのが清永浩文氏。
彼はシュプリーム代官山店がオープンする頃にワングラムを去り、同年ファッションブランド「SOPH.」をスタート。
翌年にはナイキとタッグを組んだ「F.C. Real Bristol(FCレアルブリストル)」を開始し、現在でも人気を博しています。
出典:houyhnhnm
また、スケートショップの名店「HECTIC(ヘクティク)」の江川芳文氏もHECTIC解散後にワングラム経由でシュプリームに参画。
HECTICが2012年に終了したタイミングでオープンした、シュプリーム渋谷店で店頭に立っていたというから驚きです。
その後、江川氏は自身のブランド「Hombre Niño」を始動。
「XLARGE」のデザイナーも務めるなど、ストリートで活躍を続けています。
■さいごに
今回の記事では、なぜ日本にだけシュプリーム店舗が多いのかについて解説しました。
現在、ほとんどのセレクトショップからシュプリームの商品は引き上げ済み。
ワングラムの主導によって建てられたシュプリーム正規店を除けば、日本でシュプリームの取り扱いを許されているのはDover Street Market Ginzaのみとなっています。
とはいえ、引き続き日本のシュプリームファンは、他国と比べて圧倒的に恵まれた環境。
これはひとえに、シュプリームを「ブランド」にした、大村健一氏や藤原ヒロシ氏による功績が大きいと言えるでしょう。
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