ラッパー兼ビートメイカーとして活躍しつつ、2020年ごろからスニーカーやファッションに関する情報発信をYouTubeでされているCRDさん。
独自の視点からスニーカー関連の話題に切り込む姿勢が人気を集めています。
今回の記事ではそんなCRDさんにFashionArchive.comのしゅーが対談形式でインタビューを敢行。
全2回のインタビューの前編となる本記事では、CRDさんが考えるスニーカーシーンの今後や、動画発信を行う上で大切にしているマインドについて伺いました。
−まず、自身のこれまでのご経歴について教えてください。
CRD:2006年から、ラップとビートメイクを同時に始めました。
元々は高校時代にバンドをやっていたのですが、社会人になって「1人で曲が作りたいな」と思った時に、ビートもラップも自分1人でできるヒップホップが気楽だなっていうきっかけでスタートしています。
大阪を中心にクラブとかで活動していて、ビートメーカーとしていろんなラッパーに曲を提供したりとかもしていたんですけれども、2020年頃からスニーカーやストリートファッションに関するYouTube投稿を始めました。
−ありがとうございます。「CRD」という名前の由来や思い入れなどはあるのでしょうか?
CRD:90年代に活躍したグランジ系ロックバンド、PEARL JAM の曲『Cropduster』から頭文字を取っています。
ロックは元々好きで、高校時代はバンドも組んでいました。
今の音楽活動のルーツでもあるので、ロックバンドの何かから名前を取りたいなと思っていたんです。
Cropdusterって、農薬を散布する飛行機のことなんですが、あんまり日本では聞かない単語ですよね。
そこがなんか面白いなと思ったのがきっかけです。
−なるほど。スニーカー/ファッション系の投稿を始めたきっかけなどはあるんでしょうか?
CRD:ぶっちゃけて言うと、音楽があんまり振るわなかったんですよ。
「音楽であかんかったら、なんかできることないかな」と思っていた中で、スニーカーとかファッションが好きだったのでそれを動画にして発信することを始めました。
あとはスニーカー系の動画を見ている中で、解説や考察をキチンとやっている人が少ないなと思って、そこをやってみたら結構ウケたというのがきっかけです。
−情報Aと情報Bをリンクさせるような、幅広い知識がベースにある考察が素晴らしいなと思っています。
CRD:紐付きというところで言えば、毎日スニーカーに関する情報に触れていると必然的に繋がってくると言うか、ラップでいうところのフリースタイルのように勝手に頭に想起されていくのに近い感覚なんだと思いますね。
−私自身も情報発信をしている中で同じ感覚があります。1つ1つの情報が結びついて、「あ、こういうことなんじゃないかな」みたいな仮説が自分の中で生まれる…みたいな。
CRD:そうですね。しゅーさんの記事、僕多分、ほぼ全部読んでると思いますよ。
−え、本当ですか?
CRD:はい。動画を日々作る中で「僕しかここまで考察していないだろうな。この情報を日本語にしてる人他にいないだろうな」って情報を入れたいなといつも思っていて。
だから、しゅーさんの記事を一番最初に見た時に「ここまで詳しく調べてる人が日本にいるんだな」と思って感心したんですよ。
「うわ、これはちょっとあんま僕も適当なこと言われへんな」と思って(笑)
だから、そういう部分ですごく僕は勝手に同志のように思っています。
−めっちゃ嬉しい。本当に恐縮です。ありがとうございます。
−YouTube投稿をここまで続けてきた感想や印象的だった出来事を教えてください。
CRD:そうですね。ラップとかトラックメイクとか、いわゆるヒップホップだけをやっていた時には 全然声がかからなかったニートtokyo(※ヒップホップ関連のショートインタビュー番組)やファッション雑誌、イベントとかからお声がかかるようになったっていう事はめちゃくちゃ印象的でした。
−なるほど、ありがとうございます。では、そんなスニーカー/ファッション系の動画を撮る上でのポリシーや、気をつけていることはありますか?
CRD:これはもう僕、動画撮りはじめの時からすごく自分で気をつけてるところなんですが、「自分の動画を完璧と思わないこと」ですね。
−完璧と思わないこと。
CRD:僕が完璧な情報を持っている、意見が100%正しいってことは無いと思うんですよ。
情報収集をする際に海外のメディアから調べることが多いんですが、そこにしても必ずしも正しい情報ばかりが記事になっているとは限らないので。
音楽活動をしている中で、周りに結構有名になった奴とかも居るんですけど、彼らがメディアで扱われている時に内情とは全然違う情報が流布されたりすることがよくあるんですよ。
なので、「世間ではこういう風に言われてますね」みたいなスタンスも取りつつ、自分の情報を正しいと思いすぎないようにしています。
−すごく共感できます。あと私がCRDさんの動画を拝見していてよく思うのが、燃えそうな話題の時もできるだけ誰かを悪者にしないようにお話しされている印象があります。
CRD:基本的には誰かを一方的に傷つける発信はしたくないですね。
先ほどの音楽シーンの話にも戻りますが、周りの仲間が一方的に変な噂流されたりするのを見ていたりすると、内情を知っている人間からすれば「サムいな」って思うわけじゃないですか。
情報発信は「真実を知っている人たちには『サムい』と思われてる可能性がある」ので、どっちか一方に肩入れするのはしない方が良いのかなと心掛けています。
まあ、言う時は言うんですけど(笑)
−そのバランス感覚は流石ですね。だからこそ信頼できるなとも思います。
CRD:あと、僕の動画はスニーカー好き/ファッション好きの同志の視聴者の皆さんとのコミュニケーションだと思っています。
僕が発信している内容だけじゃなくて、コメント欄を含めて動画が完成すると思っているので、僕いつも動画の最後の方に「コメント欄に参加して、皆さんの意見を聞かせてください」みたいなことを言うんですよ。
これも一方的な情報発信として「これが正しいですよ」っていう風な動画にならないように気をつけている点ですね。
−スニーカーに興味を持ったきっかけやエピソードを教えてください。
CRD:中学生ぐらいからファッションは全般的に好きだったんですが、本格的にスニーカーに特化して好きになったのは結構遅いんですよ。2009年くらいですかね。
2009年にワーレイ(Wale)というラッパーがデビューしたんですが、彼が自身のファッションにスニーカーを合わせるのが凄く上手い人なんですよ。
90年代00年代のB-Boyコーデって「バチバチ」というか、色の合わせ方をバチっと決めたスタイルが多かったんですけれども、ワーレイはそこにハズしを入れてきたりして。
※ワーレイ(Wale)のファッション
−なるほど
CRD:ワーレイはこれまでのラッパーに無い独特なコーデをしてるんですが、加えて現行のバッシュやインラインのスニーカーも履くんですよ。
そんなラッパーなかなか居ないですよね。探す方が難しい。
元々ワーレイの音楽が好きでよく聴いていたんですが、彼の「どんなスニーカーでもカッコよく履きこなす」スタイルが、僕がスニーカー文化に触れるきっかけになりました。
−面白いですね。同じ時期と言いますか、私はカニエ・ウェスト(現Ye)が好きなんですが、2011年くらいの曲で『Ni**as In Paris』という曲があって。
CRD:分かります。
−歌詞で『そのジャケットどこのだ マルジェラのか?』みたいな感じの歌詞があったり、実際にツアーで衣装をマルジェラから特注したりしていて。
やっぱりカニエは「バチバチ」じゃない服装も着れる人だなという風に私は捉えています。
CRD:そうですね。やっぱり彼のファッションは気になります。彼の新しいことをどんどんやろうとしている姿勢が好きです。
−ありがとうございます。では、次のテーマです。スニーカー初心者に1足オススメするとしたら、CRDさんは何を選びますか?
CRD:もうこれは結構昔から一貫して言ってるのですが、「自分が直感でいいなと思ったものを買ってください」ですね。
事前に情報収集したり、識者から意見を聞くのも良いのですが、僕は自分の直感で選ぶのが1番良いと思っています。
スケッチャーズであろうがVANSであろうが、どのスニーカーにもストーリーは絶対ありますから。
で、後でそのスニーカーを本当に気に入ったのであれば、「どういうブランドで」「どういうモデルで」といった感じでスニーカーにハマっていくと思うんで。
−なるほど。直感で選ぶ。ありがとうございます。
では、お聞きしたかった質問も後半に差し掛かってきたんですが、ここでスニーカーブームの終焉や業界の今後についてお尋ねしたいと思います。
CRD:そうですね。巷でよく言われている「スニーカーブームが終わった」という言説ですが、僕は「ナイキブームが終わった」と捉えています。
最近視聴者の方が画像を送ってくれたのですが、Nike Air Jordan 1 Retro High OG “Royal Reimaginedが余ってしまっていて。
ナイキのエンプロイストア(※社員や関係者向けの福利厚生施設 ナイキ商品が特別価格で購入可能)で1万6,000円で買えるんですよ。
−定価から1万円以上の値下げ!
CRD:もともと日本に入ってきた足数も多くなかったらしい中で、素材違いとはいえジョーダンのOGカラーがセールになっている現状は、明らかにナイキブームの下火を感じます。
ただ、いわゆる嗜好品としてスニーカーが好きな人、例えばジョーダンフリークみたいな人は「別に俺の中では冷めてないぜ」といった具合に今のナイキを支えているという部分が大きいかと。
そして、全身のファッションを含めた実用性としてスニーカーを求めている人が、ニューバランスやON、サロモンやアシックスに流れているのだと思います。
つまり、今スニーカー界は二極化しているなと。
スニーカーヘッズ勢と一般的なファッション好きに分かれているのではないでしょうか。
−なるほど。
CRD:今後一般的なファッション好きはナイキをチョイスする機会が減っていくのではと思います。
ただ、これはナイキブーム以前に戻るだけで、当時もスニーカーヘッズはナイキを下支えしていたんですよ。
全体のシーン見ていると、おそらく「みんながナイキに興味を持っていなかった頃」に戻るだけで、またいずれ周期が戻ってきてナイキに注目が集まる時が来ると思っています。
−面白いですね。私は直近のブームしか肌で体験していないので、その前の時代を知っているCRDさんの視点は新鮮に感じます。
CRD:面白いですよね。直近のブームを体験してきた世代、僕は「GOT’EM世代」って呼んでいるんですが、彼らがSNKRSを通じて毎週のようにリリースされるレアモデルを狙っていたっていうのは絶対に体験として身体にこびりついているんだと思います。
なので、僕の世代の人たちが裏原宿文化を語るように、今後10年20年後にGOT’EM世代として「あの時アツかったよな」って語るようになるんじゃないかなと。
そのタイミングで、当時彼らが熱狂していたモデルが復刻したりすることで、またシーンが盛り上がるかもしれないな、と思っています。
−今後長い目でスニーカーシーンを見てゆくのが楽しみになりました。では、CRDさんにとっての「スニーカー」とは何なのかをお訊きして前編のインタビューを終えたいと思います。いかがでしょうか?
CRD:「良くも悪くもただの靴」ですね。
スニーカー好きって自分が持っているモデルの世間的な価値を気にされる方が多いと思うんですよ。
だけれども、例えば限定スニーカーを履いて友達と遊びに行ったとして、友達からしたらそのスニーカーの価値って説明無しでは分からないじゃないですか。
−そうですね。
CRD:人によっては、ただの靴。だけど、そのただの靴に自分がこだわりを持っている。そこに面白さを感じるんです。
「自分の中での価値」って僕は物事を楽しむ上ですごく大事なことなのかなと思っています。
−なるほど、よく分かりました。では、最後に普段CRDさんの動画を観られている視聴者の方へ一言お願い致します。
CRD:これはもう率直に。これからもご視聴よろしくお願いします。
−ありがとうございました。
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※CRDさんのインタビュー記事後編はこちら!