2010年代後半、人々がスニーカーとストリートファッションに熱狂していた頃、シーンを引っ張っていたのは間違いなくオフホワイト(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)でした。
しかし、2021年にブランド創設者ヴァージル・アブローが死去してはや3年。
あの頃の熱狂が嘘だったかのようにファッションメディアから姿を消し、街中でオフホワイトを目にする機会もめっきり減ったように感じます。
では、オフホワイトは「終わってしまった」のでしょうか?
今回の記事では、オフホワイトの過去と現在を見つめ直し、未来を展望します。
■オフホワイトの創業者、ヴァージル・アブローの軌跡
ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)ほど、短期間でファッション業界のスターダムを駆け上がった人間は後にも先にも存在しないでしょう。
イリノイ工科大学大学院で建築学を学び、修士号を取得したヴァージルは卒業後、建築関係の会社に就職。
趣味の一環でプリントTシャツを行う中、ヒップホップアーティストにしてファッションディレクター、Yeことカニエ・ウェストに出会います。
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同じシカゴ出身ということもありヴァージルとカニエは意気投合。
2002年よりカニエは自身のツアーの物販、アルバムカバー、ステージデザインなどをヴァージルに依頼し、その中にカニエの名アルバム「Yeezus(2013)」のジャケットデザインなども含まれています。
2009年にカニエと共にフェンディ(FENDI)でインターンを務め、2012年にはカニエの設立したクリエイティブエージェンシーであるDONDAのクリエイティブディレクターに就任。
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この頃、カニエ関連のマーチャンダイズを手掛ける傍ら、自身初のファッションプロジェクト「パイレックスヴィジョン(Pyrex Vision)」を始動します。
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そして、2014年1月に満を辞してこれをブランド「オフホワイト(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」としてリニューアルデビュー。
ミラノを拠点とし、高いクオリティーの服作りとストリートファッションの文脈をミックスしたオフホワイトとヴァージル・アブロー。
彼のクリエイションはリカルド・ティッシ、キム・ジョーンズと並び、2010年代後半の「ラグジュアリーストリート」を牽引する存在となりました。
また、世界中のストリートキッズたちにオフホワイトの名を轟かせたのが、ナイキとの「The TEN」コレクションをきっかけとするコラボレーションプロダクト。
そして、2018年に黒人としては初のルイヴィトン・メンズアーティスティックディレクターに就任したヴァージル・アブローは、服作りを始めて5年あまりで、オフホワイトとルイヴィトンという2つのトップブランドを牽引することとなったのです。
順風満帆だったオフホワイトは、2021年第3四半期に世界最大のファッションコングロマリット、LVMHによって60%の株式買取。
しかし、ますますの活躍を期待されていたこの直後、2021年11月28日にヴァージルは心臓血管肉腫でこの世を去ることとなりました。
その後、ヴァージルの後任として翌年にはオフホワイトのディレクターにイブラヒム・カマラが就任。
2024年10月にはLVMHがオフホワイトの株式を手放し、ブルースター・アライアンスがそれを引き受け。
今後のオフホワイトの展望は不透明な状況となっています。
■「最もホットなブランド」だったオフホワイトの栄光と転落
2014年にデビューコレクションを飾ったオフホワイトの急成長と転落は、大手ファッション検索プラットフォームLystが年4回発表する「最もホットなブランドランキング」をみれば明らか。
プラットフォーム内外での検索回数や、商品の閲覧回数、売上などをベースに、四半期ごとにブランドの人気度を1位〜20位で測るこのランキング。
2018年第3四半期に計測をスタートとすると同時に、歴史あるメゾンブランドを押さえて誕生数年のオフホワイトが1位を獲得しています。
翌2019年には、年4回のうち3回で1位を獲得するという無敵っぷり。
押さえておきたいのは、オフホワイトがナイキと共に実施したファッション史上トップクラスにハイプだったコラボ、「The TEN」コレクションは2017年の実施だったということ。
つまり、2018年下期以前もこの「最もホットなブランド」ランキングがあったなら、確実にオフホワイトはTOP3以内に連続してランクインしていただろうということです。
しかし、2019年第3四半期、すなわちここから3期連続でオフホワイトが1位獲得を成し遂げるちょうどその頃、ヴァージル・アブローは体調不良を訴えメディアに向けて療養を宣言。
ヴァージルのブランドへの関与が減ったからなのか、2020年ではTOP5位以内を死守したものの、2021年第1四半期にはランキング計測開始以来、初めてTOP5位から漏れ、10位に転落。
以降、21年は13位(第2四半期)、続いて14位(第3四半期)と順位が下がってゆき、第4四半期に入ってヴァージルが亡くなった四半期では20位圏外となってしまいます。
そして、2022年に入り、ヴァージル最後のコレクションが発表された第1四半期では11位までランキングを戻すものの、そこからは新ディレクター就任の第2四半期で19位、そして2022年第3四半期で20位にランクインして以降、今日にいたるまでランキング圏外に追いやられています。
■オフホワイトはなぜ「終わった」のか?
こうしてランキングを眺めてみると、ヴァージル・アブローというスターを失ったことで、オフホワイトは凋落の一途を辿っているように思えます。
この動きは、2022年11月にアレッサンドロ・ミケーレがグッチを去って以降、同ブランドが「最もホットなランキング」から姿を消したこととも一致。
では、名デザイナーがブランドの人気をここまで左右するのなら、ヴァージル・アブローのすごさとは一体どんなところにあったのでしょうか?
オフホワイトのコレクションをデビューシーズンから順番に眺めてゆくと、ヴァージルがファッション業界のトレンドを敏感に捉えていたことが如実に伺えます。
出典:kith
例えば、初期のうちはオフホワイトのアイコンとも言えるストライプやアローといったロゴをプロダクトに多用。
ストリートファッションの得意技とも言えるプリントTシャツやフーディーを中心に、それをラグジュアリーな品質で届けることをコンセプトとしていました。
しかし、2017年に実施したナイキとオフホワイト「The TENコレクション」のコラボスニーカーを見てみれば、インソール以外でストライプやクロスといったオフホワイトのロゴを押し出していないことが見て取れます。
実はこれ以降、ロゴを前面に押し出すトレンドが少しずつダウントレンドとなってゆくことになるのですが、この頃のオフホワイト春夏/秋冬のコレクションを見ていても、ヴァージルがこのことに早い段階から気づいていたことが伺えます。
しかし、ロゴの代わりとしてヴァージルがオフホワイトで見せたのはナイキとのコラボスニーカーの巧みなアレンジや、穴の空いたハンドバッグをはじめとするキャッチーなデザインを押し出すスタイル。
出典:balenciaga
この流れはバレンシアガのデムナ・ヴァザリアも現在に至るまでうまく取り入れているスタイルです。
こうした流れを踏まえ、ヴァージルの死後のオフホワイト、すなわちイブラヒム・カマラによるディレクションを人々はどう見ているでしょうか。
残念ながら、2024年後半に差し掛かっているというのに、ヴァージルが存命の頃に開発されたデザインの色違いか、今のトレンドの上っ面だけをなぞったようなプロダクトしかないように私は感じます。
※2024年秋冬の新作アイテム。どれもヴァージル存命時に見たデザインばかり…
これは現デザイナーの実力不足というよりも、ヴァージルの栄光を少しでも延命しようというブランドの方針ががっちりと固まってしまったせいで、新しいデザインやクリエイティブをデザイナーが提案できないような体制に陥っているようにも思えます。
ヴァージルの遺産を食い潰しながら延命措置を図っている現在のオフホワイトを変えるためには、名のあるデザイナーを招聘して立て直しを模索するしか方法がありません。
しかし、傘下ブランドから力のあるデザイナーを移籍させ、別ブランドの立て直しをするのが大得意だったLVMH グループは2024年10月にオフホワイトの株式を売却。
今後オフホワイトは生まれ変わることができるのでしょうか?
■さいごに
今回の記事では、オフホワイトの今後について考察しました。
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