2010年代に復活したスニーカー市場の盛り上がりと呼応するように、各ブランドから毎日のようにリリースされているスニーカーたち。
レア度の高いコラボモデルや秀逸なデザインの靴には多くのスニーカーヘッズが殺到し、発売後即座にリセール市場で値段が釣り上がります。
これによりレアなスニーカーをゲットし転売することで利益を得ようとするバイヤーや、お目当てのシューズを定価以上のお金を出してでも買いたいと考えるユーザーが出現。
スニーカーの販売者と購入者をマッチングさせる二次流通サイトも数多く誕生しました。
そんなスニーカーのリセールサイトの中でも最大手となるのが米Stock X(ストックエックス)。
出品されているアイテムの価格がユーザーのニーズに応じて株価のように変動する仕組みや、ユーザーへの発送前に専門スタッフによる鑑定を挟むシステムが人気を集めていました。
そんな中、Stock X経由で購入した大量のスニーカーの半数以上が偽物であったことをあるユーザーが2022年にInstagramで告発。
スニーカー業界を揺るがす大スキャンダルとなりました。
今回の記事ではこのStock Xの事件の顛末を徹底解説。
スニーカーリセール業界の未来を占います。
※本記事については動画でも解説中!
@shu_fashionarchive.com あなたのそのスニーカー偽物かも! #スニーカー #スニーカー紹介 #メンズファッション #雑学 ♬ NIKE DRIP – Taiyoh
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目次
- ■あるバイヤーがStock Xで62足のスニーカーを購入。しかし…
- ■Instagramで状況を発信すると、Stock Xから連絡が
- ■Stock Xは真贋鑑定のルールを変更
- ■ナイキのブランド保護チームも被害者に接触
- ■Stock Xのシステム上の問題
- ■ナイキをはじめとするブランド側にも問題あり
- ■さいごに
■あるバイヤーがStock Xで62足のスニーカーを購入。しかし…
今回の事件の主役となったのは、スニーカーヘッズのロイ・キム(Roy Kim)氏。
自身のInstagramにてスニーカーの着画を発信する他、副業としてスニーカーの転売も行っていました。
2022年3月から4月にかけて、彼はStock Xを通じてエアジョーダン1の”University Blue”や”Hyper Royal”、”Sail/Dark Mocha/Black”などを転売目的で計62足購入。
当然これらのシューズはStock Xでの独自の鑑定システムを通過しており、鑑定済みを表す緑の証明タグが全てのスニーカーに取り付けられていました。
Stock Xからの商品到着後、キム氏はLegit CheckとCheckCheckという2つのアプリを通じて再度自主的な真贋鑑定を実施。
すると、なんと62足のうち38足ものスニーカーが双方のアプリで「偽物」と判断を下したのです。
※画像は参考のものです
出典:reddit
驚いたキム氏はStock Xのサポートに連絡するも、全くの返答無し。
痺れを切らした彼はStock Xに問題を認知してもらうためにも、この状況をInstagramに投稿することを決意したのです。
2022年7月6日にキム氏が投稿した一連の事件に関する告発には多くの注目が集まり、Stock Xへの非難が集中する結果となりました。
■Instagramで状況を発信すると、Stock Xから連絡が
キム氏のInstagram投稿をきっかけにStock Xがさながら炎上状態に陥ると、ついにStock Xの担当者がキム氏に接触。
Stock Xは彼のスニーカーの再鑑定を実施し、キム氏の主張が正しいことを認めざるをえなくなります。
そこでStock Xは偽物と判別されたシューズ分の全額返金と500ドルのギフトカード、そしてデトロイトのStock X倉庫における鑑定プロセスの見学会などをキム氏に申し出。
キム氏はデトロイト行きの申し出は断ったものの、計38足のスニーカーの返品と返金、500ドルのギフトカードを受領しました。
■Stock Xは真贋鑑定のルールを変更
出典:twitter
また、キム氏のInstagram投稿から1週間後、内部リークによってStock Xの真贋鑑定ルールの変更情報が流出。
リークによればキム氏が被害にあったエアジョーダン1を含む11種のスニーカーが”危険度レベル3“に格上げ。
検査完了までに最大3人の審査を通すことを義務付けるルール変更がなされました。
■ナイキのブランド保護チームも被害者に接触
出典:nicekicks
一方その頃、元となるスニーカーの製造元であるナイキもまた、Stock Xに対して物申したいことがあったようです。
同年、Stock XがリリースしたNFTにナイキのスニーカーの画像が勝手に使われていた問題などから同社へ訴訟を起こしていたナイキ。
キム氏の一件を重く見たナイキは彼の自宅にブランド保護チームを送り込み、Stock Xとは別途で当該スニーカーの調査を実施し法廷文書化。
この文書はStock Xの問題性を証明する証拠として、ナイキによって係争に使用されることとなりました。
■Stock Xのシステム上の問題
出典:pen-online
今回の騒動に関してStock Xの問題点を以下のようにまとめました。
1:今回の一件はStock Xの人為的なミスではなく、「システム上の問題」である。
鑑定者が日に何百足と鑑定をする中で1-2足の偽物がチェックを潜り抜けるのであればともかく、3種類62足のスニーカーのうち38足が偽物という状況は異常。
こうした状況は恐らく特定のスニーカー、今回であればエアジョーダン1の”University Blue”や”Hyper Royal”、”Sail/Dark Mocha/Black”を担当していた鑑定士に問題があった可能性が高い。
2:Stock Xの鑑定は商品が本物であることの証明ではない。
キム氏によれば「そもそも”本物”とはっきり言えるのは、そのスニーカーを製造したナイキだけ。だからこそStock Xは商品を“verified(検証済み)”と表現しています」とのこと。
すなわち、Stock Xの鑑定済みバッジがあることと商品が本物であることはイコールではない。
3:Stock Xのサポート体制は商品が本物であることを前提にしている。
そして、”本物”と言えないのにも関わらず、Stock Xは返品や交換を基本的に受け付けていない。
このルールは商品が本物であることが前提となるナイキやアディダスといったメーカーと同様のものである。
また、Stock Xの返品ポリシーには「いらなくなった商品は、いつでも当社サイトで販売することができます」と記載があり、これはすなわち偽物を受け取った消費者がそのスニーカーをプラットフォーム上に再度売り直すことにもつながりかねない。
そして、今回のキム氏の一件で明らかなように、Stock Xは偽物をつかまされた消費者に対しなかなか補償を行おうとしない。
■ナイキをはじめとするブランド側にも問題あり
前項で解説した通りStock Xの対応に多くの問題点があることに疑問の余地はありませんが、ナイキをはじめとするブランド側の販売戦略を含め、スニーカー業界全体としても構造上の課題があるように筆者は感じます。
そもそもナイキなどのメーカーはハイプなスニーカーを限定販売し二次流通での価値を高めることでブランド価値の向上を図っています。
必然的に市場にはハイプなスニーカーを欲しがるユーザーを狙った偽物が紛れ込むこととなりますが、その真贋鑑定にブランド側が関与することはなく、あくまで第三者であるStock Xなどの二次流通プラットフォーマーがその役目を担うことになります。
しかし、この対策として例えばナイキがエアジョーダン1のソールにICチップなどを埋め込み本物証明とするような改変もまた、ブランドにとってはかなりリスキー。
レアスニーカーの復刻のたびに細かな仕様変更に一喜一憂するスニーカーヘッズのことを思えば、スニーカー本体にチップを埋め込むような対応はなかなか受け入れ難いことでしょう。
こうしたスニーカー市場の偽物問題への対策としてNFTのセット販売などを取り入れる動きも広がっていますが、まだ完全に浸透しきっているとは言えません。
また、前述の通りStock Xはナイキのスニーカーの画像を使ったNFTを独自で販売していますが、ナイキから許可を得ていないことや、製造元ではないため「本物」とはっきり断言できない点などを指摘され、訴訟を受けています。
■さいごに
今回の記事では、ナイキのスニーカーをStock Xを通じて大量購入したユーザーが偽物をつかまされた事件について解説しました。
二次流通プラットフォームの真贋鑑定をめぐって表沙汰となった今回の事件ですが、構造上の問題が解決するにはまだまだ時間がかかりそうです。
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