深掘り解説

【考察】インフルエンサーブランドはなぜ服好きから嫌われるのか?

TikTokにInstagram、YouTubeやX。
ソーシャルメディアや動画配信プラットフォームが急速に発展したこの10年余りで、人々の「推し」はテレビタレントやアイドル、俳優からインフルエンサーへと変化しました。
彼ら彼女らの多くは日銭を稼ぐ上での手段として、広告収益や投げ銭だけでなくアパレルブランドをローンチ。

ファンからはこうしたインフルエンサーブランドが好意的に受け入れられている一方、いわゆる「服好き」からは白い目で見られることもしばしばです。

では、なぜインフルエンサーブランドは嫌われるのでしょうか?
ダサいから? パクリだから?
いやいや、もっと違う理由があるでしょう!
今回の記事では、この現象をインフルエンサー側/服好き側の双方から読み解き、考察します。

■インフルエンサーはなぜアパレルに手を出すのか?

これまでテレビが独占していた「発信」がスマホのカメラによって民主化され、一般人が誰かの「スター」になれる現代。
しかし、発信する場所がどれだけ増えようと、コンテンツを視聴する人間の数や時間には限りがあるのが現実です。
TV時代と比べて何百万倍にも膨れ上がったチャンネル・コンテンツの中で、可処分時間を奪い合うインフルエンサーの世界は苛烈にして残酷。

また、いくらネットの広告出稿料がTVCMのそれを上回ったところで、「チャンネル」が無数にあるネットの世界では、一人当たりが受け取れる報酬が少なくなるのは当たり前。
いつ消し飛ぶとも分からないプラットフォームからの広告収益だけに頼れない彼ら彼女らは、かつて芸能人がカレー屋をオープンしていたかのように皆一様にファッションブランドを立ち上げています
また、インフルエンサーが食い扶持のタネとして「アパレル」を選ぶのは合理的。

人間が生活を営む上で重要な3大要素(=最もお金を落としやすい部分)、すなわち衣・食・住の中で「衣」は最も手っ取り早く、リスクが低い領域です。
「住」の難しさは勿論のこと、「食」もなかなかに大変なビジネス。
店舗運営なのか?キッチンカーか?食中毒リスクは?そもそも美味しさは担保できる?といった問題は無限にあり、手頃な価格帯で一定のクオリティを持った食事を長期にわたって提供することも求められます。

対して、「衣」すなわちアパレルは、突き詰めればどこまでも原価を抑えることができる領域。
極論で言えば1度だけTシャツをネット上で販売し、そのままアパレルビジネスから撤退することだって可能です。

こうしたとっつきやすさがインフルエンサーをアパレル販売に駆り立てていることは明らかだと言えるでしょう。

また、インフルエンサー専門のアパレル制作代行会社も多数存在。
会社としても知名度0からブランドを立ち上げるより、固定のファンが一定数ついているインフルエンサーを支援しながらマージンを貰う方がビジネスとして合理的なのです。

■インフルエンサーブランドはなぜ嫌われるのか?

SNSや動画サイトが普及した現代においては、TV時代に栄華を誇った「誰もが知っている国民的スター」はもはや存在しません。
その代わりに、あなたは名前すら知らないが、数万人の熱狂的なファンに応援されているインフルエンサーが世界中に乱立しているのです。

そんな時代においてインフルエンサーがファッションブランドを立ち上げることは、デザイナーを愛し、ブランドを愛してきた従来の服好きからすれば受け入れがたい側面があるのも事実でしょう。

アパレルは突き詰めていくと、アート(美術)やクラフト(工芸)といった、そもそも専門外の人間が業界に入り込んでくることを嫌う風潮が根強い世界と隣接しています。
そんなアパレル業界にあなたが見たことも聞いたこともない人間が突然現れ、ファッションブランドを立ち上げ、しかもそれが結構人気らしいと聞いたら。

どこの馬の骨とも分からない奴が、アパレルの世界に土足で上がり込んできた
我々がコツコツと作り上げてきた文化が壊された

と不快感を覚えても不思議ではありません。

また、インフルエンサーがYouTubeやInstagramを通じてコンテンツを発信できるのと同じように、服好きたちもSNSを通じて自分の「不快感」をネットの海に放出し、たくさんの共感を集めることができる時代になりました。

映画を観た後にその作品についての感想をSNSで読み漁るように、自分が感じたぼんやりとした不快感を言語化してくれた発信に飛びつく人が今どれだけ多いか。
まとめサイトやXを中心に、インフルエンサーブランドが“炎上”しやすい世界が出来たと言って良いでしょう。

■“嘘つき”なインフルエンサーと“有害”な服好き

では、ブランドを立ち上げるインフルエンサーとそれを非難する服好きは、どちらが悪いのでしょうか?
私は双方に問題があると感じています。
まずインフルエンサーで言えば、

自分が売ろうとしているのは「ファングッズ」なのか
それとも「デザインや機能性にこだわったブランド」なのか

ここで嘘をつくべきではないと思います。
音楽アーティストのライブグッズと同じ立ち位置を目指すなら、それはそれで胸を張って販売すれば良い。
素材やデザインにこだわり抜いたアパレルアイテムを、インフルエンサーとして培った発信力と共に提供することもまた素晴らしいことでしょう。

しかし、プライベートで自分が着ないような、いわゆるファングッズ的なアイテムを製作しておきながら、

おしゃれですよ/機能性高いですよ/素材にこだわっていますよ

といった謳い文句を使ってしまうのは少しズルいのではないでしょうか?
こうした “嘘つき”なインフルエンサーブランドが少なからず存在することで、他の真面目にアパレルに向き合っているインフルエンサーへの目線も冷たくなっているように感じます。

当然、インフルエンサーブランドを「インフルエンサーブランドだから」と十把一絡げに批難する服好きも、大いに問題があると言えるでしょう。
真面目に服作りに取り組んでいるインフルエンサーが叩かれる要因の一つには、職人はコツコツと物作りに励み、誰かに見つけてもらうのを待つというメンタリティーがまだまだ根強いことも関係していそうです。

私の周りにも、自ら宣伝することを「卑しいお金稼ぎ」「物作りに集中していない」と捉え、結果的に自分自身を苦しめているデザイナーは少なくありません。
自分でモノを作り、自分でそれを宣伝することを厭わないインフルエンサー。
彼ら彼女らをフラットな目線で見れる人が増えれば、ファッション業界そのものにとってもプラスになると私は考えています。

また、前章にて論じた、「自分たちの領域に土足で入ってきてほしくない」という服好き側の論理は、そっくりそのまま彼らにも刺さりかねない凶器です。
それはすなわち、インフルエンサーが何かを作り出し、それをファンが応援している、という場に、あなたは土足で踏み込んでいませんか?ということ。

インフルエンサーを「推す」手段として当該アパレルが存在しているだけなのに、そのインフルエンサーと全く関係のない服好きが外からそれを叩いているケースは各地で散見されます。


出典:bidstitch

誰かを応援するツールとしてファッションを利用するな」という反論も湧いてくるかもしれません。

しかし、昨今の古着ブームによってニルヴァーナをはじめとするビンテージのバンドTシャツが高騰し、服好きから “ファッション” として消費されていることを苦々しく思っているファンは少なくありません。

これは「ファッションを楽しむためにファン向けの応援グッズを利用するな」という批判の種になりえないでしょうか?

■まとめ

ここまで、普段の記事とは全く異なる「個人の感想」を取り止めもなく書いてきました。
自分は “なんとなく” でインフルエンサーブランドを叩いていないだろうか?
自分が作っているのは「ブランド」と「ファングッズ」のどちらなのだろうか?
両者が自身の言動を立ち止まって見つめ直すことで、この不毛な論争が少しでも収まれば良いなと勝手ながら思っています。

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しゅー
2022年まで約6年間にわたって大手IT系企業に在籍。ファッションブランドやゲーム会社のマーケティング・カスタマーエクスペリエンス強化・海外進出を支援。ファッションはデザイナーズもストリートも大好きだが、特にシュプリームは大好物。