対談

【第2回】職人が生き残るためには?!経産省OBに聞く伝統工芸の現状と未来!

岸本吉生 クラフトテイルズ CRAFTTALES 職人 仕事 年収 ブランド マーケティング 伝統工芸 工芸品

経済産業省(旧通産省)への入庁以降、全国を回りながら日本の産業発展に注力してきた岸本吉生氏。
現在はものづくり生命文明機構やデザインコンサルタントの活動を中心に、日本の職人や伝統工芸についても精通されています。

そんな岸本氏に、職人の手しごとを発信するECサイトCRAFT TALESのしゅーがお話を伺う全4回の対談企画。
前半2回をFashion-Archive.com、後半2回をCraft-Tales.comにて配信します。

対談では「売り手」「職人」「買い手」「場所」の4視点から業界の抱える課題や解決のヒントを深掘り。
第2回では伝統工芸の担い手である「職人」フォーカスしてお話を聞きました。

第1回対談

第3回対談

第4回対談

岸本吉生 愛媛県警 経済産業省 中小企業庁経営支援部 九州経済産業局 コロンビア大学国際院

しゅー:前回の対談では岸本さんが注力をされている輪島塗を中心に、売り手・商人(あきんど)がどうあるべきかについて語っていただきました。
今回は職人の側でできること、あるべき姿についてお尋ねします。

岸本:職人にできることは重大で、変化に柔軟な気持ちがないといけません。
昨日と違うことをする、変化に合わせるということは当然ながら本人にとっては負担です。
しかし、これを「嫌だ」と言って新しいことしなくなる職人ばっかりになったら困ります。

岸本:でも、幸いなことに職人には若い人がいるので、そこは大丈夫でしょう。
ただし、若い職人は下手です。
下手な若い人のものを尊重するようになったら、ものづくりは終わりです。
今、20代30代が作った新しいものをもてはやす風潮があり、ものづくりのレベルはどんどん下がっています。

しゅー:では、どうすればよいのでしょうか?

岸本:変化に敏感な若い職人と、年を重ねて腕を磨いた職人がタッグを組むことです。
若い人が思いついた新しいものを「俺が作ってやるよ」と熟練の職人が作るといいものができる。そこのコンビネーションができればいいよね。

Airpodsケース シルバー925 銀製 エアポッズケース CRAFTTALES クラフトテイルズ

(CRAFT TALESで販売予定のAirPods4用シルバーケースの試作品をお見せする)

岸本:これは良い!これはまさしく今の職人たちがやったことのない、新しい銀の製品です。
でもこれを作らせるのは大変だ。

しゅー:大変です。すでに商品開発をスタートしてから半年も試行錯誤をしています。

※シルバー925製AirPodsケースはCRAFT TALES公式サイトにて販売予定です。
https://craft-tales.com/

岸本:やっぱり銀細工の世界にも決まっているパターンがありますからね。
職人はそれを乗り越えていく必要があるのです。
商人と職人が共に商品開発を行う時には、互いに譲り合わないといけないんです。
職人に100%譲らせてはいけない。

しゅー:どういうことでしょうか?

岸本:例えば職人が作った新製品が、商人の側からすると満足のいかない出来だったとします。
この時、出来がよかろうが悪かろうが全部にお金を払い商人が買い取った、となれば職人は次も必ず作ります

岸本:輪島塗にもそういうことはありました。若い人はどうしても下手でしょう。
そうすると店の社長が彼に100個作らせても売れないんですよ。

しかし、買い取りがあれば若い職人はお金を得ながらさらに腕を磨ける。
作ったものが売れないとなると、自分はその程度の力しかないということが職人にもわかる。
ここで奮起して練習しない職人にはもう仕事を出さないですから。

しゅー:若い職人が一人前になるための大切な仕組みですね。

岸本:しかし、今はもうそういう余裕がない。
下手な人には仕事を出さない・作らせない。
そうすると職人は育たなくなります。

こうなると、まだ実力の足りない若手職人が自分で最初から社長をするしかなくなる。
腕は大してないまま、思いつきの仕事をやる。

しゅー:するとどうなりますか?

岸本:アイディアは面白いから、○○コンテストや××コンクールで入賞する。
今年は彼が1位だ、彼が2位だということになってインターネットに掲載される。
そんなこと続けていればものづくりはダメになっちゃう。
だって下手なんだもの。

岸本:やはり、若い職人は腕を磨きながら新しいアイディアを考える。
熟練の職人は若い職人の意見を取り入れながら新しいものを作る。今そこのコネクションが切れているんです。
これは日本だけではなく、イタリアだろうとどこだろうと世界共通の職人の課題です。

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しゅー:若い人が若いうちから認められたい、コンテストで賞を取りたいと考えるのはダメでしょうか。

岸本:「認められたい」なんて考える人は大した人じゃない。
良い仕事をしたいから仕事をしているのであって、勤めている会社で自分がいちばん褒められる社員になりたいとか、そんな社員はいりませんね。


しゅー:熟練の職人と若手の職人それぞれのなすべきことは明確ですね。
では、次に関係性についてお尋ねします。

以前私がTBSの番組にて「伝統工芸」をテーマにした番組をお手伝いした時、
「お師匠が自身の作品を安い値段で売ってしまい、弟子は当然ながら自分の作品にお師匠より高い値段をつけられない」
という問題定義がなされました。

岸本:それは弟子の方が全く分かってない。
なぜお師匠はその値段で売ったのか?人間関係ですよ。
例えば100万円のものを5万円で売ってあげたら、95万円プレゼントしたことになる。
そういうことが弟子には分からない。

しゅー:じゃ、暮らしていくために…

岸本:暮らすとかではありません。
上の人より自分が高い値段をつけられないっていうことそのものが、間違っている。
そんなの時と場合による。いつも5万円で売っているはずがないのです。

しゅー:そうか、そうですね。なるほど。

岸本:そこは訊くんですよ。

「親方、どうしたら5万円で売っちゃったんですか」と。
「バカお前。俺あの人には世話になってるんだよ」と。
「誰にでもってわけじゃないのですね」
「あったりまえじゃねえか」

そういう会話すれば済むんです。
自分だったらどの場面でどうするかみたいなところを考えたり、師匠とコミュニケーションを取ったりしなければならないのです。


しゅー:しかし、今は業界全体に金銭的な余裕がない。
余裕がなければ若手と師匠とのコミュニケーションを円滑にするのも難しいですよね。

岸本:年齢によってお金に対する気持ちが違ってしまっていますからね。
50代・60代になると腕もそう上がらないし、自分の視力とか集中力が下がってるって自覚があるわけ。
だから「仕事があるっていうことに感謝しないといけないな」という気分になるんですよね。

しゅー:贅沢言っちゃいけないと。

岸本:だけど、20代でこの道に入って30代で腕に磨きがかかったと。
所帯を持ち家も建てた、ってなると全く違う。
「いま稼がなくていつ稼ぐんだ」となる。

岸本:やっぱり「注文があってから作る」っていうことを原則にしない限り工芸産業はしんどいですね。
そうでないと売れなかった時のロスを誰が被るか。ババの押し付け合いが始まる。
そうなるとババを押し付けられるのは、職人に決まっているんですよ。
で、輪島はそれでずいぶん職人をいじめた。

岸本:でも幸いね、どうしていじめられても耐えられてきたかわかりますか?
職人の中には年金貰っている年齢層の人たちが少なくない。
だからなんとかもっているのです。

これが40代の職人だったら耐えられない。
子供の養育費があって、住宅ローンがあって…
だから40代で職人をやってる人は大抵副業をしているのです。
コンビニで働きながら輪島塗つくるとかね。それも大変です。

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岸本:そうすると「こんな仕事をやるもんか」という気持ちにだんだんとなりますね。当たり前のことです。
やっぱり職人が10時間働けば3000円×10時間で3万円と。
それが払えるように値段をつけないといけません。

「商品を作らせました」
「この値段では売れなかったので3割値引いて売りました」
「なのでお前(職人)の取り分は○円です」

こういうやり方は工芸の産地でやっちゃいけない。注文があってからだとそういうことは起こらなない。

しゅー:これ、本当に業界全体に通ずる話ですね。

岸本:うん。工芸は職人が価値だから。気持ちよく仕事してもらわなきゃ。
これはね、(輪島塗の)ホームページに書こうかと思っている。
携わる職人にじゅうぶんな手当を支払っていますと。


しゅー:そこに価値を見出すお客さんもいますからね。ありがとうございました。
第3回は「買い手」についてお話をお伺いします。

(第3回,第4回はCRAFT TALES公式サイトにて配信いたします)

第1回対談

第3回対談

第4回対談

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しゅー
2022年まで約6年間にわたって大手IT系企業に在籍。当時はファッションブランドやゲーム会社のマーケティング・カスタマーエクスペリエンス強化・海外進出を支援。 現在は当サイトの共同運営の他、職人の手しごとを発信するECサイト「CRAFT-TALES.com」を運営。 ファッションはデザイナーズもストリートもアルチザンも大好きだが、特にSupremeが大好物。